
日本では胚の研究と臨床利用で規制が異なる
文部科学省と厚生労働省は2019年、ヒト受精胚に遺伝情報改変技術を用いる基礎研究の指針を定めました。対象は、胚の発生や成長、着床の仕組み、胚の保存技術、生殖補助医療の改善に関する研究です。
研究に使えるのは、生殖補助医療で作られ、今後その目的には使わないことが決まった凍結胚です。提供者の同意を得ること、受精から凍結期間を除いて14日以内であることなどの条件があります。
指針は研究で扱う胚を子宮へ移植することを禁じています。一方、日本学術会議の提言は、臨床目的で編集した胚を用いる行為について、当時の日本には包括的な法律がなく、指針違反への対応も公的研究費の停止などに限られ、刑事罰の対象ではないと整理しました。
日本学術会議は法規制の早期整備を提言
日本学術会議は、ヒト胚へのゲノム編集の臨床利用を規制する法律を早期に整備するよう提言しました。規制対象は当面、遺伝子の働きに長期的な影響を及ぼす操作とする案を示しています。
法律の形としては、ヒトクローン技術規制法の「人の尊厳」の考え方を広げる案と、ヒト胚への臨床応用に絞った法律を新設する案の二つを挙げました。いずれも、人の尊厳に生物学的多様性の維持を含める考え方が示されています。
提言は、臨床利用を原則禁止としつつ、将来必要と判断された場合の例外を認められる制度を提案しています。胚の取り扱いを規制し、違反には行政上または刑事上の措置を設ける方法も例示しました。また、国際的なルール形成に日本の専門家が参加し、国際的な議論を国内の規制や見直し制度へ反映するよう求めています。
編集方式の変化は安全性評価にも関わる
CRISPR-Cas9は、ガイドRNAで狙ったDNA配列へ導き、DNAの二本鎖を切断する方式です。細胞が切断箇所を修復する過程で編集が起きますが、修復経路によって意図しない変化が生じる可能性があります。
塩基編集はCas9を改変したニッカーゼと塩基変換酵素を組み合わせ、特定の塩基を変える方式です。プライム編集ではニッカーゼと逆転写酵素を組み合わせ、狙った配列を挿入します。これらは二本鎖切断を使わない編集方式として開発されています。
ただし、二本鎖切断を避ける方式でも安全性評価は必要です。CRISPR編集では狙った場所や別の場所に、小さな挿入・欠失や大きな構造変化が起こる可能性があります。計算によるオフターゲット予測は細胞内の環境を反映しないため、実験での検証が必要です。技術の方式やリスクが変われば、規制上の分類や評価基準も見直す必要が生じます。
技術の進展に合わせて規制を見直す仕組み
ゲノム編集は、CRISPR-Cas9に加えて塩基編集やプライム編集などへ広がっています。規制が特定の方式を前提にすると、新しい編集方法や臨床状況に応じたリスク評価を反映しにくくなるという課題があります。
この課題に対し、技術応答型規制という枠組みが提案されています。定期的な見直し、リスクに応じた分類、科学的助言、登録制度、公開の場での意見聴取、執行、国際協調を組み合わせ、技術の変化に合わせて監督を更新する考え方です。
規制を更新する際には、変更の根拠と手続きを明確にし、説明責任を保つことも枠組みの要件とされています。日本学術会議の提言も、国内法の整備と国際的なルール形成への参加を並行して進めるよう求めています。











