
皮膚の感覚に注意を向けた実験
皮膚のかゆみや熱さに意識を向けると、ヒスタミンで起こした急性の炎症反応が小さくなり、腫れも早く引く傾向が示されました。研究チームは、注意が感覚の受け取り方だけでなく、免疫反応の調整にも関わる可能性を、健康な成人を対象とした3つの実験で検討しました。
ヒスタミンはアレルギー反応などで体内から放出され、血管を広げる物質です。研究では皮膚にヒスタミンを用いて反応を起こし、盛り上がる腫れ(膨疹)とその周囲の赤み(紅斑)を測定しました。
最初の実験では37人が、腕の反応に注意を向ける条件と、映像を見て注意をそらす条件を別々に経験しました。20分後の腫れは、注意を向けた条件で平均3.5ミリ、注意をそらした条件で5.0ミリでした。
反応の大きさと回復の違い
最初の実験では、赤みも注意を向けた条件で平均10.6ミリ、注意をそらした条件で14.0ミリでした。腫れは注意を向けた条件でより早く縮小に転じましたが、赤みでは同様の時間経過の差は見られませんでした。
映像の違いや課題の負荷が結果に影響した可能性を調べるため、2つ目の実験では新たな20人が同じ図形を見ながら課題に取り組みました。図形の実物らしさを考える条件と比べ、腕の感覚に注意を向ける条件では、腫れと赤みが約1.6分の1になりました。
研究チームは、2つの実験で参加者の約90%に、注意をそらしたときのほうが大きい腫れが見られたと報告しています。一方、腕に注意を向けた参加者は、かゆみや熱さをより強く感じると同時に、皮膚の炎症反応は小さくなりました。
感覚信号と自律神経の関与
3つ目の実験では、局所麻酔薬のリドカインで皮膚の神経信号を弱めました。この条件での腫れは平均4.0ミリで、同じ参加者が感覚を保ったまま注意を向けたときの3.1ミリより大きく、腫れが引く過程も遅くなりました。
ただし、麻酔を使った条件の腫れは、注意をそらした条件の平均4.9ミリより小さい値でした。この結果から研究チームは、皮膚からの感覚信号が炎症の回復に関わる一方、感覚が弱まっても注意が反応を調整する経路が残る可能性を示しています。
自律神経の測定では、発汗に関わる皮膚電気活動、心拍数、皮膚温度に条件間の差はありませんでした。一方、心拍の間隔のゆらぎ(心拍変動)は、注意を向けた条件でやや高く、麻酔を使った場合にも差が続きました。研究チームは、この結果が迷走神経を含む副交感神経系の関与と整合すると解釈しています。
マインドフルネス研究との違い
身体感覚に注意を向ける介入に関連する先行研究では、炎症マーカーへの影響は一様ではありません。2016年のレビューは、マインドフルネス介入を調べたランダム化比較試験20件、計1,602人を検討し、炎症関連タンパク質や免疫細胞など一部の指標に影響する可能性を挙げましたが、研究間のばらつきから結論は暫定的としました。
2016年の別のレビューは、太極拳、気功、ヨガ、瞑想を含む26件のランダム化比較試験を整理しました。炎症マーカーのCRPは、14試験のうち7試験で低下し、残る7試験では有意な変化がありませんでした。炎症関連遺伝子の発現や、炎症に関わる転写因子NF-κBのシグナルには、より一貫した低下が報告されました。
2019年のメタ分析は、標準化されたマインドフルネス介入を調べた10研究、計607人を対象とし、炎症性サイトカイン、CRP、心拍変動の結果を統合しました。全体の結果は混在しており、明確な結論には至らず、研究数の少なさや大規模で厳密な試験の不足が課題として挙げられました。
今回の実験は、健康な成人の皮膚に起きた短時間のヒスタミン反応を対象に、注意の向け方を変えたときの変化を測ったものです。マインドフルネス研究が複数週の介入後に血液などの炎症マーカーを調べたのに対し、急性反応をその場で測る設計でした。研究者は、今回の知見を臨床上の助言に結びつける段階ではないとしています。











