
シスプラチンに耐性を持つ食道扁平上皮がんの細胞とマウス腫瘍に、伝統的な中医学処方「華友丸(Huayu Wan)」が作用したとする研究結果が発表されました。実験では、細胞の鉄代謝と抗酸化機構に影響してフェロトーシスを誘導しました。マウスでは抗PD-1療法との併用により、腫瘍の増殖がより強く抑えられました。人での治療効果を示す結果ではなく、細胞と動物を用いた段階の研究です。
華友丸が調べられた背景
食道扁平上皮がんは食道がんの一種で、シスプラチンを含む化学療法が治療に使われます。がん細胞がシスプラチンに耐性を持つと、治療への反応が低下することが課題です。
華友丸は、桃紅四物湯と抵当湯という処方に由来する複数の成分からなる伝統的な中医学処方です。研究では、シスプラチン耐性を持たせたヒト由来のKYSE150細胞とマウス由来のmEC25細胞を使い、その作用を調べました。
華友丸で処理すると、両方の細胞の増殖が抑えられました。細胞に与える量が多いほど、また処理時間が長いほど、抗腫瘍作用が強まったと報告されています。
鉄と抗酸化機構に及ぼした作用
フェロトーシスは、細胞内の鉄に依存した脂質の酸化が進み、細胞死につながる仕組みです。アポトーシスでは細胞の縮小や核の断片化などが特徴となる一方、フェロトーシスでは鉄依存性の酸化損傷や細胞膜の損傷が起きます。
細胞膜の脂質が過酸化すると、膜の構造や細胞内の酸化還元バランスが損なわれます。鉄は活性酸素の生成を促し、脂質過酸化を進める要因になります。
通常、シスチンを取り込んで合成されるグルタチオンは、GPX4という酵素とともに脂質過酸化を抑えます。華友丸で処理した細胞では、グルタチオンの減少、細胞内の鉄と活性酸素の増加、脂質過酸化、GPX4発現の低下が観察されました。
フェリチン分解と細胞死の検証
研究チームは、華友丸がシスチンとグルタチオンに関わる抗酸化機構を弱める一方、鉄を蓄えるフェリチンの分解を促す経路にも作用したと報告しました。フェリチンの分解に関わるNCOA4の増加などが確認され、細胞内で利用可能な鉄の増加と結びついています。
フェリチンを分解する選択的なオートファジーは「フェリチノファジー」と呼ばれます。オートファジーは細胞内の物質を分解する仕組みです。フェリチノファジーは鉄の貯蔵と利用可能性を変えることで、フェロトーシスに関与します。
フェロトーシスを抑える薬剤フェロスタチン-1を加えると、華友丸による細胞毒性は部分的に弱まりました。また、オートファジーの阻害やNCOA4の抑制でも、鉄の蓄積と細胞毒性が弱まりました。
マウス腫瘍と免疫療法との併用
シスプラチン耐性の食道がん細胞を移植したマウスでは、華友丸を投与した群で腫瘍の増殖と重量が抑えられました。腫瘍内では、免疫細胞の一種であるCD8陽性T細胞の浸潤増加も確認されました。
抗PD-1療法は、免疫細胞の働きを妨げるPD-1に作用する治療です。マウス実験では、華友丸と抗PD-1療法を併用した場合、どちらか一方だけを使った場合よりも腫瘍増殖の抑制と腫瘍重量の減少が大きくなりました。
華友丸の人での安全性や治療効果を確立する臨床結果は得られておらず、シスプラチン耐性の食道扁平上皮がんの治療として評価するには、今後の研究が必要です。











