2100年までに最大30mmの上昇を推定
研究チームは、南極のスウェイツ氷河が海面上昇に寄与する量を、2100年までに最大30±6mmと推定しました。従来の予測のおよそ2倍に当たります。氷河が海底の高まりに支えられた状態から離れる時期は、早ければ2038年と見積もっています。
この推定では、将来の気候による追加的な温暖化を加えず、海水が氷の下へ入り込む「接地帯」での融解過程に焦点を当てています。研究チームは、この条件を将来の海洋温暖化の不確実性を切り分けるための下限シナリオと位置づけました。
従来の予測との差は、接地帯をモデルでどう表現するかに関係します。研究チームは、過去の観測を再現できるモデルで将来を計算し、接地帯での融解を考慮すると、海面上昇への寄与が従来推定のおよそ2倍になるとしました。
氷河の後退を再現する接地帯
接地線は、海底に接している氷が海に浮かぶ氷棚へ移る境界です。潮汐などでこの境界が移動する幅のある領域を「接地帯」と呼びます。スウェイツ氷河では、海水が接地線より内陸側の氷の下まで入り込むことが観測されています。
一般的な氷床モデルの多くは、接地線を陸上の氷と浮いた氷の間にある明確な境界として扱います。今回のモデルでは幅2〜5kmの接地帯を設け、その内部でも海水による融解が起きるようにしました。研究チームは、この設定で1996〜2023年の後退、薄化、流動速度の増加を再現しました。
過去の状態を再現する計算では、氷の表面速度、厚さ、接地線の位置という3種類の観測記録をモデル結果と照合しました。モデルは1990年代半ばを代表する状態から2023年までを計算し、観測に合う条件を調べてから、2100年までの推定に進みました。
海底の高まりが後退を抑える仕組み
スウェイツ氷河の西側にある主流部は、海底の深い谷に沿って内陸へ後退してきました。1996年以降の後退距離は約25kmで、速度は年約800mです。現在、氷河は海底から約950mの位置にあるムージノット・リッジという高まりに支えられています。
海底の高まりは、氷河の後退を一時的に食い止める地形です。ムージノット・リッジは氷河の内陸側へ向かって海底が高くなる斜面を持ち、後退を妨げます。リッジを越えた先で海底が深くなると、氷河は支えを失い、後退が進みやすくなります。
潮位が高いときには、海水がリッジの先にある海底のくぼみまで入り込み、接地した氷の下を最大約6kmさかのぼることが観測されました。侵入した海水は接地帯の氷を融かし、氷河を支える部分を弱めます。今回のモデルでは、融解がリッジの広い範囲に及ぶと、氷河が高まりから離れる過程が早まる可能性があると計算されました。
観測された侵入とモデルの条件
研究チームは、2023年3〜6月にICEYEの合成開口レーダー衛星で取得した観測を使い、潮汐に伴う接地線の移動を調べました。氷河の主流部では、接地帯の幅は中央部で約6km、両側で約2kmでした。また、満潮時には厚さ5〜10cmの海水が接地帯から約6km内陸まで入り込む様子が確認されました。
今回の海面上昇推定は、過去の観測に合うよう接地帯の幅と融解条件を調整した氷床モデルに基づきます。研究チームは、接地帯の長さと海底での融解速度を変えて過去の変化を再現し、独立した観測記録との整合性を評価しました。
2038年という時期と最大30±6mmという値は、このモデル設定と一定の気候条件で得られた推定です。約2倍という比較は、今回の推定と従来の予測との比較で、将来の海洋温暖化を加えたシナリオの数値ではありません。











