Effects of hUMSC transplantation on ovary tissues morphology, uterus morphology, and HOXA10 activation in uterus of POF mice
写真: Lu, X., Cui, J., Cui, L. et al. / CC BY 4.0 / Wikimedia Commons

運動習慣と、脂肪細胞などから分泌されるホルモン「アディポネクチン」に関連する仕組みが、マウスの卵巣老化を遅らせる可能性があります。ただし、人の妊孕性や閉経年齢への効果は実証されておらず、薬剤アディポロンも臨床試験前の段階です。

運動したマウスで卵胞の減少が抑えられた

中国の研究チームは、英国バイオバンクの152,435人と米国の健康・栄養調査の12,418人を分析し、閉経前の人は閉経後の人より身体活動量が多い傾向を報告しました。いずれも異なる時点の集団を比べる横断研究であり、この結果だけから運動が閉経を遅らせる因果関係は導けません。

マウス実験では、トレッドミルで定期的に運動した雌のマウスは、運動しなかったマウスより卵巣内の卵胞が多く、原始卵胞の減少も抑えられました。原始卵胞は休眠状態にある卵子を含み、卵巣に蓄えられた卵胞の予備にあたります。

運動したマウスでは、卵巣内のアディポネクチン濃度も上昇しました。卵巣でアディポネクチンを作る量を減らすと、運動による原始卵胞の減少抑制効果は76%低下しました。この結果は、アディポネクチンが運動の作用の一部を仲介することを示しています。

アディポロンはマウスの繁殖期間を延ばした

アディポロンは、アディポネクチン受容体を刺激する実験段階の薬剤です。研究では、7カ月齢から1カ月間投与した雌マウスで、未投与群より原始卵胞が多く保たれ、卵巣内の総卵胞数と抗ミュラー管ホルモン(AMH)の量も高くなりました。

AMHは卵巣内の卵胞の状態と関連するホルモンです。投与群では、通常は約12カ月齢で繁殖を終える未投与群に対し、最長15カ月齢まで子を産み続けたマウスがいました。これはマウスで観察された繁殖期間の延長であり、人の閉経年齢にそのまま当てはめられる結果ではありません。

英国バイオバンクの約147,000人を対象にした分析では、アディポネクチンに関連する遺伝的変異を持つ人は、他の参加者より閉経年齢が約1カ月遅い傾向でした。遺伝的変異との関連は、運動や薬剤の効果を人で実証したものではありません。研究チームは、運動の介入試験やアディポロンの長期研究が必要だとしており、薬剤はまだ前臨床段階です。

AMHの値は妊孕性や閉経年齢を直接示さない

AMHは、卵巣内の卵胞数を間接的に反映する指標として臨床で使われています。主に前胞状卵胞や小さな胞状卵胞から作られ、休眠状態の原始卵胞そのものから分泌されるわけではありません。そのため、血中AMHの変化は卵胞の発育段階や集団の変化にも左右されます。

AMHの測定は、卵巣機能の異常を調べる場面や、体外受精での卵巣刺激への反応を見積もる場面で役立つとされています。ただし、自然妊娠や不妊治療後の妊娠可能性、将来の閉経年齢を予測する力については、なお不確かで、追跡期間の長い研究が必要です。したがって、マウスでAMHが増えた結果は、人の妊孕性や閉経時期の改善を示すものではありません。

AMHは卵巣予備能を知る手がかりですが、卵子の質を直接測るものではありません。血中濃度は年齢とともに低下し、胞状卵胞の数との関連が報告されています。今回のマウス実験で測定されたAMHの増加も、卵巣内の変化と合わせて解釈する必要があります。

成人向け運動指針と卵巣老化研究

厚生労働省は「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」で、成人に対し、歩行または同程度以上の強度の身体活動を1日60分以上行うことを推奨しています。強度は3メッツ以上で、歩数に換算すると1日約8,000歩以上が目安です。メッツは身体活動の強度を表す単位で、歩行は3メッツに相当します。

厚生労働省は同ガイドで、息が弾み汗をかく程度以上の運動を週60分以上行うことと、筋力トレーニングを週2~3日行うことも推奨しています。健康状態や体力には個人差があるため、強度や量を調整し、可能なものから取り組む考え方も示しています。これらは成人全般の健康づくりに向けた指針で、卵巣老化の遅延を目的に設定された運動量ではありません。

今回の研究は、運動とアディポネクチンに関する仕組みをマウスと人の集団データで調べた段階です。人を対象に運動量を割り当てて卵巣機能や閉経年齢への影響を検証する試験や、アディポロンの臨床試験は今後の課題です。