
2021年の研究は、食後の腹痛に食物抗原への免疫反応が関わる場合があると報告しました。 ただし、過敏性腸症候群(IBS)の原因を食物アレルギーだけで説明できるわけではなく、ストレスなど複数の要因も症状に関わります。 食後の腹痛や下痢が続く場合、症状だけで食物アレルギーとIBSを区別することはできません。
食物抗原への免疫反応が痛みにつながる仕組み
Nature掲載の研究では、マウスを使った実験で、細菌感染や細菌毒素が食物抗原への免疫反応を引き起こし、腸に限られた抗原特異的IgE抗体の産生につながることが示されました。 IgEは免疫反応に関わる抗体です。
感染後に同じ食物抗原を口から摂取させると、IgEと肥満細胞に依存する仕組みで内臓の痛みが増しました。 肥満細胞は免疫に関わる細胞です。研究では、ヒスタミンH1受容体を介して内臓の感覚神経が敏感になることも確認されました。
研究チームは、IBS患者の直腸とS状結腸の粘膜に、グルテン、小麦、大豆、牛乳の抗原を注射しました。 注射した場所では局所的なむくみと肥満細胞の活性化が観察され、食物抗原への局所反応が腹痛に結びつく可能性が示されました。
IBSと食物アレルギーを見分ける手がかり
IBSでは、繰り返す腹痛に加え、排便との関連、排便頻度の変化、便の形状の変化のうち複数が診断の手がかりになります。 食後の不快感には、食事による腸の収縮反応や、腸が通常の刺激を痛みとして感じる過敏性などが関わる場合があります。
ストレスや食物がIBSの症状を誘発または悪化させることはありますが、症状の出現や再発がストレスと常に一致するわけではありません。 ステーションクリニックによると、IBSは食事の種類を問わず症状が出る場合がある一方、食物アレルギーなどでは特定の食品の後に症状が出ることがあり、症状のパターンを検討します。
食後の下痢は、IBSのほか、乳糖不耐症や胆汁性下痢などでも起こり得ます。 症状と食事との関連、排便による変化、便の状態の変化は、診断の手がかりになります。 IBSでは、ほかの疾患を示す所見があれば検査を追加して鑑別します。
食物アレルギーの診断には症状と検査の両方が必要
食物アレルギー研究会によると、特定の食品で症状が出ることと、特異的IgEの検出など免疫学的機序が関わる可能性の両方を確認して診断します。 問診では、症状が出たときに食べたものや含まれる成分、これまでの摂取状況に加え、食後の運動や服薬も確認します。
血液検査で食品に対する特異的IgEを調べたり、皮膚試験を行ったりして、疑われる食品への感作を確認します。 ただし、特異的IgE検査には偽陽性があり、陽性だけでは食物アレルギーと診断できません。 最終的な診断には、食物経口負荷試験が必要とされます。
即時型の食物アレルギーでは、多くの場合、食べてから2時間以内に症状が現れ、皮膚、呼吸器、消化器など複数の臓器に症状が出ることがあります。 腹痛や下痢に加えて、じんましんや呼吸器症状なども同時に起きたかどうかが、医療機関での評価に関わります。 IBSの診断では、症状の経過や排便との関係も併せて検討されます。
免疫反応の研究と診療上の位置づけ
Nature掲載の研究は、感染後に食物抗原への免疫反応が生じ、食後の痛みにつながる仕組みを実験で示しました。 この研究が示したのは食物に関連する腹痛の一つの機序であり、IBS全体の原因を特定したものではありません。
MSDマニュアルによると、IBSの原因は不明で、病態には生理学的因子と心理社会的因子の両方が関わります。 腸の感受性や運動の変化が症状に関わり、感情的要因や食事、感染症などが症状を誘発・悪化させる場合もあります。 この研究だけでは、プレゼン前の腹痛などストレスに関連する症状も同じ仕組みで起きるとはいえません。
小金井つるかめクリニックによると、IBSの要因にはストレスや腸内細菌などがあり、原因は明らかになっていません。 同院は食物アレルギーの関与や抗アレルギー薬で症状が改善した報告にも触れ、日本ではIBSに対して保険適用のある抗アレルギー薬はないとしています。 抗ヒスタミン薬はNature掲載の論文で示された仕組みに関係しますが、この実験結果だけではIBSへの一般的な治療効果が確立したとはいえません。











