Iojima Kagoshima Japan
写真: Ray_go / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

約7,300年前の鬼界アカホヤ噴火は、縄文時代の日本列島に一様な人口減少をもたらしたわけではありませんでした。噴火に近い南九州では人口が大きく減る一方、北部九州では噴火の前後を通じて増加が続き、遠方の地域でも人口増加が鈍るなど、地域ごとに異なる変化が見つかりました。この結果は、噴火後の人口動態を「壊滅」か「影響なし」の二択では捉えられないことを示しています。

南九州では噴火前から人口が減少

鬼界アカホヤ噴火は、九州南方沖の鬼界カルデラで起きた大規模噴火です。噴火当時、日本列島には狩猟採集を営む縄文時代の人々が暮らしていました。噴火は強い地震や津波を伴い、火山灰が広範囲に降り積もったとされています。

研究チームが地域別の人口変化を調べたところ、南九州では噴火より前から人口が減少していました。噴火時点でこの地域に残っていた人は比較的少なく、移動性の高い狩猟採集集団が主に訪れていたとされます。

噴火によって生態系が損なわれ、一部の地域は居住に適さなくなりました。南九州の人口減少は、そうした被害が大きかった地域で特に顕著でしたが、列島全体で同じ規模の減少が起きたわけではありません。

北部九州では噴火後も人口増加

北部九州では、南九州とは異なる変化が見られました。周辺の生態系が大きな損害を受けたにもかかわらず、噴火前から続いていた人口増加は、噴火の最中とその後も続いていました。

研究チームは、被害の深刻な地域から逃れた人々の移動が、北部九州の人口増加に関わった可能性を挙げています。内陸に住んでいた人々が北部の沿岸へ移り、比較的早く回復した海の生態系から食料を得たことも、地域の人口を支えた可能性があります。

研究者は、こうした移動や生業の変化を通じて、生き残った人々が新たな社会関係を築き、経済活動を変えていったと説明しています。ただし、北部九州の人口増加を説明する要因として挙げられたのは移住などの可能性で、特定の要因だけで説明されたわけではありません。

噴火から遠い地域にも人口変化

人口の変化は、噴火の被害が最も大きかった地域の周辺に限られませんでした。噴火前に人口が増えていた日本各地の遠隔地域でも、その後に増加が止まったり、減少へ転じたりしたと報告されています。

この広域的な変化には、噴火に伴う一時的な気候変動や、シカやイノシシの食料事情の変化などが関わった可能性があります。火山灰に覆われた環境で動物の歯がすり減り、人々の食料確保にも影響したという見方も示されています。

これらは研究チームが挙げた説明候補で、地域ごとの人口変化に対する単一の原因として確定されたものではありません。

年代資料を使って地域差を推定

研究では、遺跡から得られた放射性炭素年代の出現頻度を使い、時期ごとの人口増減を推定しました。放射性炭素年代は、炭素14の測定に基づいて試料の年代を求める方法です。研究チームが用いた統計モデルは、地域ごとの考古学調査の密度の違いを考慮し、噴火後の火山灰の厚さなども説明変数として扱えるように設計されました。

この分析の土台となる日本の考古学的放射性炭素データベースは、5,500件を超える発掘報告書をもとに編纂されています。日本語版には4万4,000件を超えるデータがあり、英語版は重複や誤りを除いた39,284件の年代資料を収録しています。

年代資料の数の変化は人口そのものを直接数えた結果ではなく、地域や時期による調査の偏りを考慮したうえで人口動態を推定する手がかりです。今回の分析では、南九州の減少、北部九州の増加、遠隔地での増加停滞が併せて示され、噴火後の社会変化が地域によって異なったことが明らかになりました。

完新世最大級の噴火と人々への影響

鬼界アカホヤ噴火は、完新世に知られている噴火の中で最大規模とされています。海底に堆積した噴出物は少なくとも71立方キロメートルで、空から広がった火山灰の推定と合わせた噴出物量は332〜457立方キロメートル以上と見積もられています。

海底調査では、火砕流に含まれる噴出物が海底を40キロメートル以上移動し、4,500平方キロメートル以上に広がったことも確認されました。噴火の規模は物理的な広がりを示す一方、人口動態の研究では、同じ噴火でも地域によって人々への影響が異なっていました。