Caribbean Reef Squid colors
写真: Betty Wills / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

イカの体表全体に、周囲の水の動きを捉える有毛細胞が広く分布していることが、全身の立体画像化によって明らかになりました。細胞の毛束には長さの違いがあり、人の内耳にある有毛細胞との構造上の共通点も見つかりました。

全身に広がる水流センサー

Case Western Reserve Universityの研究チームは、孵化したばかりのイカをライトシート顕微鏡で撮影し、体表の側線を全身にわたって初めてマッピングしました。側線は、有毛細胞が並んでできた感覚器官です。研究では、頭や腕に知られていた細胞に加えて、体表の広い範囲に数百個の細胞が見つかりました。

ライトシート顕微鏡は、試料の一面だけを薄い光で照らし、画像を組み合わせて立体像を作る方法です。今回の撮影では、組織への損傷を抑えながら、イカの有毛細胞を詳しく観察しました。

研究チームは、毛束が直線状に並ぶ領域のほか、これまでイカや魚で明確に報告されていなかった広い領域状の配置も確認しました。毛束の位置や長さの違いから、体の部位ごとに異なる水の動きを捉えている可能性があります。

毛束の長さが示す感覚の違い

イカの外套と呼ばれる胴の部分では、毛束は頭部の側線にあるものより短く観察されました。研究チームは、体表に配置された多様な側線が、局所的な水の動きをそれぞれ捉えている可能性を示しています。

人の内耳では、有毛細胞の毛束が音の振動で動き、その情報が神経を通じて脳へ送られます。毛束の長さには違いがあり、長いものは低い音、短いものは高い音を捉えるのに適しています。

魚にも体表の側線と有毛細胞があります。Case Western Reserve Universityは、魚の毛束は長さがほぼ一定だと説明しています。一方、イカは毛束の長さを変化させ、異なる水の動きを捉えているようです。

人の聴覚との進化的な関係

イカの体表の細胞と人の内耳の細胞には、毛束を使って動きを捉えるという構造上の共通点があります。ただし、似た構造があることだけで、両者が共通の進化的起源を持つとは断定できません。

イカの聴覚を研究してきたT・アラン・ムーニー氏は、人や魚などの有毛細胞とイカの細胞には似た点と異なる点があり、基本的な構造が大昔に進化した可能性があると述べています。また、脊椎動物と無脊椎動物はその後、異なる進化の道をたどったとも説明しています。

ムーニー氏は、共通の基本構造という見方は推測だとし、イカの聴覚の基本的な働きをさらに調べる必要があると述べています。

聴覚障害の仕組みを調べるモデル

Case Western Reserve Universityのブライアン・マクダーモット准教授は、子どもの先天性難聴や、聴力を失うケースでは、有毛細胞の毛束が損傷していることが多いと述べています。イカの毛束を調べることで、聴覚が損なわれる仕組みへの理解につながる可能性があるとしています。

人の内耳では、音の振動が蝸牛という液体で満たされた器官に伝わり、有毛細胞がその動きを神経の信号へ変えます。イカの細胞が受け取るのは水の動きであり、同じ刺激を扱うわけではありませんが、毛束の構造や働きを比較する研究対象になります。

研究チームは、イカの体表にある細胞が生存に関わる水流の検知にどう使われるかを調べるとともに、人の聴覚や難聴の研究に役立つ可能性を探っています。