
2018〜2019年の海洋熱波後、ベーリング海でズワイガニとタラバガニ(Tanner crab)の交雑個体が急増し、2025年には過去平均の13.4倍に達しました。研究チームは、熱波によるズワイガニの減少で競争や捕食が弱まり、交雑個体が増えたと分析しています。交雑個体は漁獲枠の管理対象に十分組み込まれておらず、資源回復と漁業管理の両面で課題になっています。
海氷減少後に交雑個体が急増
米海洋大気庁(NOAA)の調査では、ズワイガニの推定個体数は熱波前の2018年に約80億匹でしたが、2021年には約10億匹まで減りました。2018〜2019年の熱波では冬の海氷が大幅に減り、海底の冷水域の水温も上昇しました。その後、ズワイガニの大量死が起き、アラスカ州は2022〜2024年に商業漁を停止しました。
冷水域は、春に冬の海氷が融けてできた冷たい水が海底に沈んで形成されます。海底水温が2°C以下の範囲として定義され、位置や広さは年ごとに変化します。冷水域の変化はカニなど海底生物の移動や分布に関わり、NOAA Fisheriesは調査地点ごとの海底水温と生物の分布を記録しています。
ズワイガニとタラバガニは交雑することがあり、その子は両方の特徴を持ちます。ただし、ベーリング海で交雑個体は従来まれで、2025年の個体数は1988〜2024年の平均の13.4倍、商業サイズの雄に占める割合は41.7%でした。交雑個体数は過去の時系列最高値のほぼ3倍に達しました。
ズワイガニの減少を介した間接的な影響
研究チームは因果モデルを使い、海氷の減少が交雑個体に直接作用したのか、親となる2種の交配機会を増やしたのかを検討しました。海氷の減少による交雑個体の生存への直接効果や、親種の生息域の重なりが増えた証拠は見つかりませんでした。
一方、海氷が多いほどズワイガニが増え、ズワイガニが多いほど交雑個体が少なくなる経路が確認されました。研究チームは、ズワイガニの減少で交雑個体への競争や捕食が弱まったことが、急増につながったと結論づけています。この間接経路は、熱波が交雑個体数に及ぼした影響の76%を説明しました。
タラバガニも2025年に調査期間中の最多水準に達しました。研究では、海氷の減少がタラバガニや交雑個体の増加を直接引き起こしたとは示されず、ズワイガニの減少を通じた影響が焦点となりました。この結果は、熱波による生態系の変化が、種同士の関係を介して広がったことを示しています。
漁獲枠への反映と資源回復
交雑個体のうち、漁獲可能なサイズの雄はズワイガニ漁で水揚げできます。しかし、歴史的に少なかったため、連邦の漁業管理計画が漁獲枠を定める際、交雑個体は独立した対象として扱われていませんでした。
2025年10月、アラスカ州魚類・狩猟局は2025〜2026年のベーリング海地区のズワイガニ漁獲可能量を930万ポンド(約20億円)と発表しました。内訳は個別漁獲枠が837万ポンド(約18億円)、地域開発枠が93万ポンド(約2億円)です。同局は、交雑個体の多さを受け、基準となる830万ポンド(約18億円)に100万ポンド(約2億1,000万円)を追加し、漁船が交雑個体を狙えるようにしました。
同局は、漁獲量のうち100万ポンド(約2億1,000万円)、全体の11%を交雑個体が多い海域で漁獲する見込みを示しました。研究チームは、交雑個体を漁獲枠に反映する方法としてズワイガニの総漁獲可能量を増やす案に触れつつ、回復途上のズワイガニへの漁獲圧を高めるおそれを指摘しています。交雑個体を漁獲対象に含める判断と、ズワイガニ資源の回復をどう両立するかが管理上の課題です。
繁殖能力と今後の調査課題
交雑個体が繁殖できるか、親種から独立した個体群をつくれるかは、現時点で明らかになっていません。繁殖できない場合と、世代を重ねられる場合とでは、ズワイガニやタラバガニへの影響も異なる可能性がありますが、研究チームは生態系への長期的な影響を今後の課題としています。
海洋熱波に伴う海氷の減少は、ズワイガニの生存に影響し、その個体数の変化が交雑個体にも波及しました。今回の研究は、交雑個体の増加を、親種どうしの交配機会が増えた結果ではなく、ズワイガニの減少を介した変化として説明しています。
漁獲可能な交雑個体の急増は、過去の個体数や漁獲を前提にした枠組みに調整を迫っています。アラスカ州は2025〜2026年の漁期に追加枠を設けましたが、ズワイガニが回復途上にあるなか、交雑個体をどのように枠へ反映するかは資源管理の判断に関わります。








