低温の効果をつなぐ代謝経路
適度な低温に置かれた線虫では、筋肉から全身へ広がる代謝経路が働き、寿命の延長とタンパク質恒常性の維持に関わります。この経路の中心となる代謝物は、ジヒドロビオプテリン(BH2)です。
研究では、成体の線虫を標準的な20度から15度へ移すと寿命が延びる条件を調べました。低温で増えたBH2は筋肉で作られ、腸や神経など離れた組織へ運ばれます。
低温による寿命延長には、体内の反応が遅くなることに加え、複数の組織を結ぶ仕組みも関わります。この経路を弱める操作をすると、低温による寿命の延長幅が小さくなりました。
筋肉で作られたBH2が他の組織へ届く
低温により、BH2合成に関わる酵素CAT-4が線虫の筋肉で増えます。BH2は他の組織へ運ばれた後、酵素DHFR-1によってテトラヒドロビオプテリン(BH4)に変換されます。
BH4は、フェニルアラニン水酸化酵素PAH-1が働くために必要な補因子です。この働きを通じてアミノ酸のチロシンが作られ、低温下での寿命延長に関与します。
CAT-4やDHFR-1の働きを抑えると、15度で見られる寿命延長が弱まりました。一方、20度や25度では、同じ抑制による寿命への影響は確認されず、この経路が低温条件で特に重要であることが示されました。
タンパク質の異常な蓄積も抑制
BH2とBH4の経路は、タンパク質恒常性にも関わります。タンパク質恒常性とは、細胞内のタンパク質を適切な状態に保つ働きです。線虫では、この経路が活性化すると有害なタンパク質の凝集が抑えられました。
ハンチントン病に関連するタンパク質を生じる線虫モデルでも、異常なタンパク質の凝集が抑制されました。筋肉でBH2合成を高めると、離れた組織のタンパク質凝集にも影響しました。
ヒト由来の細胞モデルでは、BH2またはチロシンを加えると、ハンチントン病に関連するタンパク質や、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に関わる変異型TDP-43、FUSの凝集が減りました。これらの結果は細胞実験で得られたもので、患者を対象としたものではありません。
寿命への低温効果は動物種や条件で異なる
低温と寿命の関係は、線虫以外の動物でも研究されています。線虫、ショウジョウバエ、魚類などの変温動物に加え、げっ歯類でも体温低下と寿命延長が報告されています。
線虫では、成体を標準的な20度から15度へ移す条件で寿命が大きく延びます。この研究で調べたBH2経路も、成体を低温へ移した後の反応を含む、線虫での仕組みです。
げっ歯類では、体温を約0.5度下げると寿命が延び、同程度に上げると寿命が短くなるとの報告があります。動物種や温度条件によって結果は異なります。線虫で確認された経路の働きと、他の動物での低温効果は区別して捉える必要があります。
体温を下げずに経路を働かせる可能性
線虫では、筋肉のCAT-4を遺伝子操作で増やすと、通常または高めの温度でも寿命が延び、離れた組織の異常なタンパク質凝集も抑えられました。この結果は、低温を使わずに経路の一部を働かせられる可能性を示しています。
大学の研究チームによると、BH2とチロシンを補充すると、線虫と細胞培養で低温の保護効果の一部が再現されました。研究チームは、体温を変えずに低温の効果を模倣する方法を検討しています。
成果は線虫とヒト由来細胞の実験に基づいており、低温の効果を再現する治療薬の開発には至っていません。研究チームは、BH2を含む代謝経路を神経変性疾患の研究につなげるには、追加の検討が必要だとしています。








