米国の偵察衛星「USA-32」が2026年9月13日、高度約775kmの地球低軌道で分裂し、米国宇宙軍が爆発を確認しました。 破片は元の軌道に沿って広い範囲に散らばっており、この高度の上下約50kmには稼働中の人工衛星が200機以上あります。 米国宇宙軍は差し迫った脅威はないとする一方、追跡可能な破片を監視し、他の宇宙機との接近リスクを評価しています。

打ち上げから38年後に分裂した偵察衛星

USA-32は、米国の軍事情報機関である国家偵察局(NRO)が1988年9月5日にタイタンIIロケットで打ち上げた衛星です。 米国とソ連が対立した冷戦期の機密計画に属し、「FARRAH III(ファラ3)」のコードネームで呼ばれていました。

NROが2026年に公開した記録によると、この衛星の任務はソ連のレーダー電波や無線信号を傍受し、得られたデータを地上の部隊へ送ることでした。 機体は円筒形で、衛星自体を回転させて姿勢を安定させる「スピン方式」を採用していました。

設計上の寿命は3年でしたが、2004年の時点でも稼働していました。 NROは任務を終えた時期を公表しておらず、2021年にも軌道上で回転しながら飛行する姿が観測されていました。

破片が長く残る高度約775kmの軌道

今回生じたデブリは、他の衛星の経路を横切り、将来の衝突につながる恐れがあります。 デブリは「スペースデブリ」の略で、使われなくなった衛星やロケット、分離した部品、破砕による破片など、地球を周回する不要な人工物を指します。

デブリが自然に減るまでの時間は、高度によって異なります。地球の周囲には高高度にも薄い大気があり、デブリは大気抵抗で徐々に高度を下げ、多くは大気中で燃え尽きます。 宇宙エレベーター協会が示す目安では、高度200〜600kmで落下まで数年かかるのに対し、今回の約775kmを含む高度600〜800kmでは数十年に及びます。

この目安では、高度約400kmと約775kmは、それぞれ「数年」と「数十年」の高度帯に入ります。 USA-32が分裂した付近の高度700〜1,000kmは、多数の衛星で構成する衛星群や地球観測衛星にも使われる、混雑した軌道帯です。

追跡できる破片の回避と、小さな破片への防御

低軌道では、約10cm以上の物体が監視され、軌道情報をまとめたカタログに登録されています。 より小さい物体を捉える設備もあり、宇宙物体の監視を行う企業LeoLabsは、2021年に運用を始めたコスタリカのレーダーで最小2cmの衛星やデブリを追跡できるとしています。

USA-32の破片について、米国宇宙軍は追跡可能なものを日常的な接近リスク評価に組み込んでいます。 一般に、観測によって接近を予測できれば、運用中の宇宙機の軌道を変更して衝突を避けられる場合があります。

小さな破片も高速で周回しており、衝突すれば衛星を損傷させる可能性があります。 物体が秒速7〜8km程度で周回する場合、互いの衝突速度は秒速10〜15kmになることがあります。

微小なデブリへの対策には、衝突を受け止める防御材もあります。国際宇宙ステーション(ISS)の外壁には、外側に薄い金属板を重ねた「ホイップルバンパー」が取り付けられ、衝突エネルギーを熱に変えることで外壁を守ります。 一方、人工衛星では搭載できる質量に制約があり、こうした防御材の適用が難しいとされています。

衝突が新たな破片を生む連鎖の仕組み

USA-32のような機体の分裂で増えた破片は、別の物体との衝突によってさらにデブリを生む可能性があります。 デブリの密度が一定の水準を超えると、新たな破片が次の衝突を引き起こし、連鎖的に増える状態を想定したモデルが「ケスラーシンドローム」です。

このモデルでは、衝突による破片の生成と、大気抵抗などによる消滅のバランスが問題になります。 人工衛星の密度が高く、物体が長期間残る軌道環境では、連鎖的な増加が起こりやすいと考えられています。 高度約1,000km付近では、衛星が集中し、軌道寿命も長いことを背景に、デブリが増加するシミュレーション結果が得られています。

残留エネルギーを取り除く無害化処理

軌道上での爆発を防ぐ措置の一つが、任務終了後に残った燃料やバッテリーのエネルギーを放出する「無害化(パッシベーション)」です。 国連のスペースデブリ低減ガイドラインも、残留燃料による任務終了後の破砕を最小限にすることや、不具合時の廃棄・無害化を考慮した設計を求めています。

USA-32の分裂については、Spaceweather.comが、38年間にわたる加熱と冷却の繰り返しにより、内部に残った圧力タンクやバッテリーが破裂した可能性を挙げています。 別のデブリや隕石の衝突も可能性として挙げられていますが、いずれも原因の候補です。