
産業技術総合研究所(産総研)の研究グループは、アルキル鎖を結合させた糖を水熱処理し、テンプレート剤を使わずにナノ多孔質カーボンを合成しました。糖の種類を変えると、球状の細孔を持つ材料に加え、層状のナノ構造も得られます。テンプレートを使い捨てる従来法に代わる合成法として、電極材料や触媒担体への応用が想定されています。
糖の化学修飾で細孔形成を制御
ナノ多孔質カーボンは、ナノスケールの細孔を多数持つ炭素材料です。電気を蓄える、物質を吸着する、化学反応を促すといった用途があり、二次電池の電極や触媒を支える担体などへの応用が研究されています。細孔の大きさや形がそろうと、特定の大きさの分子を取り込みやすくなります。
従来のテンプレート法では、炭素の原料に高分子や無機材料などを鋳型として混ぜ、炭素化した後に鋳型を取り除いて細孔を作ります。鋳型の種類や利用できる形状に制約があり、鋳型の除去に強酸や数百度の高温を使う場合もあります。鋳型が使い捨てになることや、工程の複雑さも課題です。
今回の方法では、糖にアルキル鎖を結合させた分子を炭素の原料にします。研究では、ショ糖の水酸基の一つにラウロイル基をエステル結合でつないだショ糖モノラウリン酸エステルを水に溶かし、水熱条件で反応させました。テンプレート剤を加えずにナノ多孔質カーボンが得られています。
水熱処理中に糖が集まり、細孔が生じる
水熱処理は、水を溶媒として密閉空間で進める反応です。反応途中の試料を調べると、時間の経過に伴って糖部分の重縮合が進み、炭素に似た固体が形成されました。同時に、糖に結合していたアルキル鎖もエステル結合の分解によって徐々に離れていきました。
この過程について、研究グループは、糖分子の自己組織化、糖部分の重縮合、アルキル鎖の脱離が順に関わると考えています。自己組織化とは、分子が自発的に集まり、まとまった構造を作ることです。糖が集まった状態で炭素固体になり、アルキル鎖が離れた跡に細孔ができるという形成過程が示唆されています。
原料の糖部分をショ糖から単糖の果糖に替え、果糖モノラウリン酸エステルを使った場合は、球状の細孔ではなく層状のナノ構造が得られました。研究グループは、糖の分子構造を変えると自己組織化の挙動が変わり、できあがる炭素材料の形も変わると考えています。糖の種類や化学修飾の仕方が構造設計の手掛かりになります。
細孔の大きさと材料特性
ショ糖モノラウリン酸エステルを使った試料では、水溶液の濃度を高めて合成し、反応後にさらに焼成した材料も調べられました。窒素吸着測定から、比表面積は1グラム当たり1,155平方メートル、細孔容積は1グラム当たり1.00立方センチメートルと算出されました。細孔の大きさは約32ナノメートルを中心に比較的そろっていました。
比表面積は、材料の単位質量当たりの表面積で、細孔の内側の面積も含みます。細孔容積は、材料の単位質量当たりに含まれる細孔の体積です。これらの値は、高濃度で合成し焼成した試料についての測定結果です。
焼成後の試料では、ラマン分光法などの分析から芳香族性の向上が認められ、電気伝導性を持つことが示唆されました。研究では、糖の化学修飾と水熱処理を組み合わせて材料を作り、さらに焼成して特性を調べています。電極や触媒担体としての実用性能が示された段階ではなく、応用に向けた材料特性の検討が進められています。
用途に応じた構造設計を目指す
産総研は今後、糖の化学修飾の仕方と、得られる細孔の特徴との関係を調べる方針です。特定の修飾方法に着目し、これまでにない形の細孔を持つカーボン材料の開発を目指します。あわせて、カーボン固体の収量向上と材料の応用にも取り組むとしています。
研究成果は、Shiori Kubo、Joshua Philip Barham、Norihito Hiyoshiの論文として、2026年8月12日に「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載されました。











