
小笠原のカメムシで見つかった種の分岐
小笠原諸島に生息するカメムシの仲間「Omoplax desecta」は、ゲノム全体にわたるDNA解析などから2種に分かれることが分かり、母島群の個体は新種「Omoplax sandoru」として記載されました。52個体の解析で島群ごとの遺伝的な違いが見つかり、雄の交尾器にも形態差が確認されています。
対象のOmoplax属は小笠原諸島に固有のグンバイムシの仲間です。これまで1種とされていた個体群のうち、父島群と母島群の個体は遺伝的に異なり、外見上の微細な違いも分類を裏付けました。
新種名sandoruは、母島群の個体が寄主とする植物の現地名に由来します。小笠原諸島は東京から南へ約900〜1,000キロに位置し、固有の陸産貝類や植物で知られていますが、島に固有の昆虫約440種の進化は、比較的研究が限られてきました。
MIG-seqで調べたDNAの違い
解析に使われたMIG-seqは、PCRでDNAの複数領域を増幅し、次世代シーケンサーで読み取る方法です。PCRは特定のDNA領域を複製して増やす技術で、MIG-seqでは反復配列を目印に、ゲノム中の多数の領域を対象にします。
MIG-seqは制限酵素でDNAを切断する工程を使わず、増幅した領域から一塩基多型(SNP)を見つけ、遺伝子型を調べます。SNPはDNA配列の一つの塩基に見られる個体間の違いです。事前に対象生物の遺伝情報がそろっていなくても解析できるよう設計されています。
この方法は、質や量が限られたDNA試料にも適用できます。今回の研究では52個体を調べ、父島群と母島群の遺伝的な違いを確認しました。DNAの比較に加えて雄の交尾器の形も調べたことで、母島群を別種とする分類につながりました。
島の隔離と寄主植物の変化
小笠原のOmoplax属では、島群ごとの地理的な隔離と寄主植物の変化が、種分化に関わった可能性があります。寄主植物とは、昆虫が食べたり生活したりする植物です。今回の研究では、遺伝的な系統関係が、同じ植物を食べることや外見の類似だけから予想される関係と一致しない場合も見つかりました。
父島群のOmoplax desectaは、在来植物のRhaphiolepis indica var. tashiroiに加え、人が持ち込んだCalophyllum inophyllumも利用します。解析結果は、この植物への寄主転換が最近一度起きたことを示しました。研究者の相馬淳氏は、この変化が将来の種分化につながる可能性に関心を示しています。
海洋島の植物食昆虫を扱った別の研究では、南東ポリネシアの20島で、固有のGlochidion属植物23種から幼虫を採集しました。採集個体の90%は、アジアやオーストララシアで同じ植物群を利用する既知の5分類群に含まれ、寄主との関係が保たれる傾向が示されました。
残る系統関係と今後の調査
南東ポリネシアの研究では、島の昆虫群集は大陸側の群集に見られる分類群の一部で構成される結果となりました。小笠原のOmoplax研究とは対象の島や昆虫が異なりますが、島の昆虫の進化を考える際に、地理的な隔離だけでなく寄主植物との関係も調べる必要性を示す事例です。
一方、希少な2種からはDNAを得られず、Omoplax属の系統関係には未解明の部分が残っています。研究者らは、昆虫がどのように小笠原へ到達し、島々で多様化したのかをたどるには、今後さらに標本を集める必要があるとしています。








