Yellow dog lying on bamboo mat
写真: Fumikas Sagisavas / CC0 / Wikimedia Commons

老齢犬で見つかった脳の変化

犬は人と同じ家庭環境で年を重ね、認知機能の低下や脳内の異常なたんぱく質の蓄積が自然に起こります。人為的な遺伝子改変で病気を再現するマウスとは異なり、加齢に伴う変化をそのまま調べられる点も、犬が認知症研究の対象となる理由です。

Colorado State UniversityのJulie Moreno氏らは、飼い主の同意を得た高齢犬24頭の脳組織を調べ、認知機能の評価や血液中の指標と照合しました。犬の脳では、アルツハイマー病の研究で使われる人の病理評価法を応用し、アミロイドβ(Aβ)とリン酸化タウなどを分析しています。

その結果、Aβは人のアルツハイマー病の初期段階に似た地域的な広がりを示し、認知機能に障害のある犬では蓄積量が多い傾向がありました。一方、神経細胞の周囲にできる神経突起性プラークは見られず、リン酸化タウの変化も脳の一部に限られました。犬の病理には人の病気と重なる特徴がありますが、同一ではありません。

マウス研究を補う自然なモデル

人のアルツハイマー病では、Aβの蓄積やタウの異常、認知機能の低下が特徴です。犬も加齢に伴ってAβを蓄積し、認知機能障害を示すため、発症までの過程を自然な老化の中で調べる対象になります。マウスは研究で広く使われていますが、認知症で見られる異常なたんぱく質の蓄積を自然には示さず、人の病気の全側面を再現するのも難しいとJulie Moreno氏は説明しています。

Frontiersに掲載された別の研究では、犬47頭の脳を調べ、加齢に伴う変化として、グリア細胞の増加やアミロイドβの蓄積、タウのリン酸化を報告しました。グリア細胞は脳内の細胞で、研究ではアストロサイトの活性化も観察されています。

この研究では、認知機能障害のある犬にもアミロイドβの蓄積などが見られ、タウの217番目の部位のリン酸化は認知機能障害のある犬に特有の所見でした。研究チームは、この変化が犬の認知機能障害を予測する指標になり得ると論じています。ただし、予測指標としての利用は確立していません。

血液指標と脳の病理

Moreno氏らの研究では、脳内のAβプラーク量が多い犬ほど、血中のGFAP(グリア線維性酸性タンパク質)濃度も高い関連が見られました。GFAPは主にアストロサイトにあるタンパク質で、血中濃度の測定は脳の変化を調べる手がかりとして研究されています。

レビューでは、アルツハイマー病の初期段階の検出や進行の評価に使う血液指標の候補として、GFAPの研究が進んでいると整理しています。ただし、GFAPの上昇はアルツハイマー病以外の疾患でも見られ、測定法によるばらつきも課題です。

行動評価と代謝研究の広がり

犬の認知機能は、飼い主への質問票などで評価されます。Moreno氏らが参加するDog Aging Projectは、5万頭を超える犬を追跡し、脳を含む全身の老化に関わる生物学的、遺伝的、環境的要因を調べています。同プロジェクトが開発した認知機能テストは、神経症状が明確になる前の行動変化を調べるために使われます。

別の研究では、重度の犬認知機能障害がある犬5頭と、年齢をそろえた健康な犬5頭の血漿を比較し、15種類の代謝物に有意な差が見つかりました。差があったものには脂質やステロイド誘導体などが含まれ、犬の認知機能障害に伴う代謝の変化を調べる手がかりになります。

研究チームは犬の血液中の代謝物を網羅的に調べ、人のアルツハイマー病と共通する代謝パターンを報告しました。対象は10頭で、論文では候補となる指標の検証に、脳画像や病理、行動評価を組み合わせた長期研究が必要とされています。