
DT-109が動物モデルで示した変化
実験薬DT-109は、マウスと非ヒト霊長類の実験で、代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)による肝臓の炎症や重症度を軽減しました。肝臓に直接働きかけるのではなく、腸内細菌や腸の内壁を介して肝臓への影響を抑える仕組みが示されています。
MASHは、肝臓に脂肪が蓄積し、炎症や細胞の損傷が起こる病気です。進行すると肝硬変や肝不全につながることがあり、世界人口の約7%に影響するとされています。
DT-109は、3つのアミノ酸からなる小分子「トリペプチド」です。今回の研究では、腸内環境を変えて肝臓を保護する仕組みが調べられました。
腸内細菌から肝臓へ届く炎症の連鎖
研究では、腸内でアンモニアを作る細菌、クロストリジウム・パーフリンゲンスの過剰な増殖が、MASHに関わる要因として確認されました。アンモニアが増えると腸の内壁が傷つき、通常は消化管から血流へ有害物質が移るのを防ぐバリア機能が弱まります。
バリアが弱まると、腸内微生物が作る毒素などが血流を通じて肝臓へ届き、炎症を促す可能性があります。免疫細胞の一種であるCD8陽性T細胞の過剰な活性化も、MASHに伴う炎症に関わる仕組みとして説明されています。
マウスと非ヒト霊長類では、DT-109によってクロストリジウム・パーフリンゲンスと腸内のアンモニアが減り、腸の内壁が保たれました。非ヒト霊長類では、肝臓の炎症とMASHの重症度も軽くなりました。
肝臓に働く既存薬候補との違い
MASHに対する別の薬剤 resmetirom(レズメチロム)は、肝臓にある甲状腺ホルモン受容体βを刺激します。EMA(欧州医薬品庁)は2025年、肝硬変に至っていない成人の中等度から進行した肝線維化を伴うMASHに対し、食事・運動と併用する条件付き販売承認を勧告しました。
EMAが評価した試験では、治療開始から12カ月後に、MASHの消失と線維化の悪化がない状態、または肝線維化の改善とMASHの悪化がない状態を達成した患者の割合が評価されました。EMAは主試験の結果から有効性が示されたと判断し、継続中の試験を完了して有効性に関する追加データを提出するよう求めています。
この薬は、肝臓での脂肪蓄積や炎症、線維化を減らします。一方、DT-109の研究で示されたのは、腸内細菌と腸のバリアを介して肝臓への炎症性の影響を抑える経路です。両者はMASHを対象にしながら、異なる仕組みを狙っています。
ヒトでの検証と今後の研究
DT-109によるMASHの改善が示されたのは、動物モデルでの実験です。ヒトでの安全性と有効性はまだ確立されておらず、研究チームは臨床試験に進むことを目指し、化合物を追加評価する予定です。
研究者は、腸のバリアを守る作用を、炎症性腸疾患など腸のバリア機能に関わる病気に応用できる可能性も検討しています。
過去の非ヒト霊長類研究では、DT-109による動脈硬化プラークの形成抑制や血管石灰化の予防も報告されています。研究者は今回のMASH研究と合わせ、複数の臓器に関わる代謝性疾患への応用を検討していますが、患者への効果は今後の検証課題です。
DT-109の発明者には研究著者が含まれます。ミシガン大学は化合物の特許を保有し、開発を担うDiapin Therapeuticsにライセンスしています。同大学と一部の研究者はDiapinに所有権を持ち、同社は研究用のDT-109を提供しています。











