
腸内細菌が食物を分解して生む物質も、体が食事から得るエネルギーの一部になります。アリゾナ州立大学の研究チームが開発した数理モデル「DAMM」は、消化管内での吸収と腸内細菌の代謝を合わせて計算し、従来の方法より実測値に近い推定を示しました。管理された食事試験では、高繊維食の参加者は一般的な欧米型の食事を取った参加者より、1日あたり約116キロカロリー少なく吸収していました。
食品表示の数値と体内で吸収するエネルギー
食品表示のカロリーは、食品に含まれるたんぱく質、炭水化物、脂質の量から推定されます。広く使われてきたAtwater係数は、各栄養素1グラムあたりの平均的なエネルギー値を当てはめる方法です。一方、食物の消化では、食べたものが小腸で吸収される量だけでなく、消化されずに大腸へ届く成分や、それを利用する微生物の働きも関わります。
食物繊維や難消化性デンプンは、消化酵素で分解されにくく、大腸まで届く成分です。腸内細菌はこれらを発酵し、短鎖脂肪酸などを作ります。短鎖脂肪酸は、腸から吸収されてエネルギー源になる場合があります。
DAMMは、食事に含まれるたんぱく質、炭水化物、脂質を起点に、上部消化管で吸収されるエネルギーを推定します。その後、残った成分が大腸へ進み、微生物によって代謝される過程や、生成物が吸収・排出される量も計算します。メタンを作る微生物の代謝もモデルに含まれています。
大腸で作られる短鎖脂肪酸の寄与
DAMMの推定では、大腸で作られた短鎖脂肪酸から吸収されるエネルギーは平均約140キロカロリーで、食事から得る利用可能エネルギー全体の約7.4%でした。利用可能エネルギーの約85%は上部消化管、約15%は下部消化管から得られるという推定です。
この計算では、腸内細菌の働きによって食物から追加のエネルギーを得る経路が扱われます。ただし、短鎖脂肪酸の産生が増えることと、食事全体から吸収するエネルギーが増えることは同じではありません。高繊維食では短鎖脂肪酸の産生が増えた一方、総吸収カロリーは欧米型の食事より少なくなりました。
食事試験の測定値と比べると、DAMMによる推定は従来のAtwater係数を使った推定より実測値に近く、従来法は参加者が吸収したカロリーを概して少なく見積もりました。このモデルは、食物の成分に加え、消化の進み方と微生物による代謝も計算します。
食物繊維への反応には個人差がある
難消化性デンプンは、小腸で吸収されずに大腸へ届き、そこで腸内細菌に発酵されて酪酸などの生成物になります。健康な若年成人20人が3週間参加した試験では、普段の食事に難消化性デンプンを加えたところ、参加者全体の便中酪酸濃度は8から12ミリモル毎キログラムに上がりました。
反応は一様ではなく、酪酸濃度の変化に基づいて参加者は3群に分かれました。増加群では便中酪酸が9から15ミリモル毎キログラムへ67%増えた一方、高濃度群では11以上、低濃度群では8以下の水準を保ちました。難消化性デンプンを分解する細菌の相対割合は、増加群と高濃度群で約2%から9%へ増え、低濃度群では約1.5%のままでした。
この試験では、食物繊維や難消化性デンプンに対する腸内細菌の反応が人によって異なりました。DAMMは、食事の発酵可能な成分が増えると短鎖脂肪酸の産生が増える過程を計算し、食事試験で観察された傾向を再現しました。
食物繊維の定義と表示上のエネルギー
欧州連合(EU)の規則では、食物繊維は、ヒトの小腸で消化・吸収されない3個以上の単量体からなる炭水化物ポリマーとして定義されています。食品に自然に含まれるものに加え、一定の生理作用が科学的に認められた加工由来・合成の成分も定義に含まれます。
EUの栄養表示では、食物繊維は任意表示ですが、エネルギー表示は必須です。食物繊維は平均で1グラムあたり8キロジュール、2キロカロリーのエネルギー源として扱われます。
食物繊維には多様な成分が含まれ、欧州委員会の分析指針は、分子量の異なる繊維を測定する複数の分析法を挙げています。一部の一般分析法は、単量体が3〜9個の低分子量成分を測定対象に含めません。
DAMMが目指す研究への応用
DAMMは、人体の代謝と大腸内微生物の代謝を同じ枠組みで結びつける研究モデルです。研究チームは、この方法を肥満、糖尿病などの代謝性疾患と食事の関係を調べるために発展させる可能性を挙げています。
将来的には、食品の栄養素だけでなく、腸内細菌との相互作用も考慮した食事設計につながる可能性があります。現段階では個人向けの食事を処方する手法ではなく、研究用の枠組みです。今後、異なる集団や食事、腸内細菌の構成での検証を重ね、微生物と人体が栄養やエネルギーをやり取りする仕組みについて得られる知見をモデルに取り込む構想です。








