A purple and orange octopus clinging to a textured rock in an aquarium
Photo by Diane Picchiottino on Unsplash

タコやイカ、コウイカの複雑な神経系の進化には、遺伝子の配列だけでなく、細胞内でDNAが折りたたまれる立体構造も関わった可能性があります。ウィーン大学などの研究チームは、頭足類の祖先で起きた大規模なゲノム再編成によって、離れていたDNA領域が接触し、新たな遺伝子制御のつながりが生じたとする研究を発表しました。ただし、この変化が知能を直接生み出したと結論づけた研究ではありません。

祖先のゲノム再編成が新たな接点を生んだ

研究対象のコウイカ類は、タコ、イカ、コウイカを含む頭足類のグループです。研究チームはタコ、イカ、コウイカのゲノムを調べ、DNAの立体構造と遺伝子の活動を比較しました。

その結果、数億年前に大規模なゲノム再編成が起き、染色体上で離れていた領域が近接した痕跡が見つかりました。DNAは細胞内で折りたたまれているため、配列上の距離が離れた領域同士でも、立体空間では接触することがあります。

接触した領域は互いの遺伝子活動に影響し、新たな制御ネットワークを形作る可能性があります。研究チームは、こうした依存関係が積み重なる過程を「制御のもつれ」と表現し、既存の遺伝要素を保ちながら遺伝子の働き方を変える仕組みとして提案しています。

大きな構造は保たれ、小さなループは変化

ゲノムの立体構造には、比較的大きな区画であるクロマチンドメインと、離れたDNA領域を近づける細かなクロマチンループがあります。今回の比較では、クロマチンドメインは進化の時間を通じて広く保たれる一方、ループは種や組織、発生段階によって大きく異なっていました。

クロマチンループは、遺伝子の発現を調節する配列と、その制御対象となる遺伝子の開始点を、細胞核内の三次元空間で近づける構造です。遺伝子制御配列は対象遺伝子から離れた場所にあることも多く、こうした空間的な接触が発現の調整に関わります。

ただし、ループができても特定の遺伝子が必ず発現するとは限りません。制御配列と遺伝子の相互作用は細胞や状況に応じて異なり、ループを作る仕組みや発現への影響も研究が続いています。頭足類の研究では、ループの違いが神経系に関わる遺伝子の近くにも見られました。

3種の比較で見えたループの多様性

研究チームは、コウイカ類の主要な系統を代表する3種、ハワイボブテイルイカ、ヨーロッパコウイカ、ミズダコの一種を比較しました。複数の組織や発生段階でデータを集め、DNAの構造、遺伝子の活動、アクセス可能なDNA領域などを照合しています。

比較では、クロマチンドメインが種をまたいでおおむね保たれていた一方、数百のクロマチンループには種や状況ごとの違いがありました。研究チームは、保存された領域にある制御配列をCRISPR-Cas9で機能停止させる実験から、ループが神経発生に関わる証拠も得ました。

この研究の対象はコウイカ類の3種で、オウムガイを含むすべての頭足類を同じ方法で比較したものではありません。

脊椎動物との違いと、知能への含意

2022年のイカを対象とした研究では、コウイカ類のゲノムに大規模な再編成があり、他の動物では離れていた遺伝子がまとまった領域が多数生じたと報告されています。研究チームは、比較した動物種の中で、頭足類に特有の遺伝子配置が505か所見つかったとしました。

同研究では、そうした領域の遺伝子の多くは頭足類だけに新しく生まれたものではなく、遺伝子の位置関係が変わった結果だと説明しています。また、脊椎動物では全ゲノム重複が遺伝子群の増加につながったのに対し、頭足類では同様の重複を示す証拠はなく、大規模なゲノム再編成が異なる経路として示されています。

今回の3次元構造の研究は、この再編成を遺伝子制御の立体的な変化と結びつけ、頭足類の複雑な神経系の進化に関わった可能性を示しました。