
米国の第III相臨床試験で、38%銀ジアミンフルオライド(SDF)を半年ごとに塗布したところ、乳歯のむし歯の半数超で進行が止まりました。対象は6歳未満の子ども830人です。歯を削らず短時間で塗布できますが、処置した部分は黒く変色します。
830人を対象にした米国の第III相試験
試験には、ミシガン州、ニューヨーク州、アイオワ州で募集された6歳未満の子ども830人が参加しました。募集先には歯科診療所、小児科医療機関、Head Startなどの幼児教育プログラムが含まれます。
研究では、38%濃度のSDF製品を使用しました。半年間隔で塗布した結果、対象となった乳歯のむし歯の半数超で進行が止まりました。「進行を止める」とは、傷んだ部分がそれ以上悪化しなくなることを指します。
試験は2018年に始まり、新型コロナウイルス感染症の流行の影響を受けながら進められました。研究にはミシガン大学のほか、ニューヨーク大学、アイオワ大学、インディアナ大学が参加し、米国立歯科・頭蓋顔面研究所が1,200万ドル(約19億円)超を助成しました。
削らずに塗る治療と、黒く残る変色
SDFは小さなスポンジ付き器具でむし歯に塗ります。従来の詰め物のように歯を削って失われた部分を補うのではなく、むし歯の進行を抑える方法です。試験では1本あたり数秒で塗布でき、ドリルや注射、鎮静を必要としません。
銀はむし歯に関係する細菌に作用し、フッ化物は歯のミネラルを保ち、さらなる損傷への抵抗を助けます。米国歯科医師会(ADA)がまとめた作用機序によると、銀イオンは細菌の膜やタンパク質、DNAに作用し、フッ化物は脱灰した象牙質の再石灰化を促します。SDFは象牙質のコラーゲンを分解する酵素の働きも抑えます。
塗布した部分は黒く変色し、その色は恒久的に残ります。ADAのガイドラインは、治療を選ぶ際に黒変などの副作用を説明し、患者や家族の希望を踏まえるよう勧めています。SDFはすべてのむし歯に適するわけではなく、進行を抑えた後に別の歯科治療が必要になる場合があります。
適用が検討される病変と患者
ADAの臨床ガイドラインは、乳歯の歯冠部にある進行した穴のあるむし歯に対し、38%SDFを半年ごとに塗布する方法を強く推奨しています。一方、穴ができていない乳歯のむし歯には、歯の面に応じてシーラントやフッ化物など別の非修復的治療を挙げています。
米国小児歯科学会(AAPD)の診療ガイドは、行動面・医療面の理由で処置が難しい患者、複数のむし歯を一度に治療できない患者、歯科受診が困難な患者などを、SDFの恩恵を受ける可能性がある人として挙げています。塗布対象は、歯髄の炎症を示す症状や自発痛がなく、病変が歯髄に及んでいない穴のあるむし歯です。
AAPDは、SDFを単独の処置としてだけでなく、むし歯の管理や修復治療の前段階にも使えるとしています。病変が黒く硬くなっているかを確認し、進行が止まっていなければ再塗布を検討します。治療後に詰め物をすることもできます。
FDAの承認申請に向けた臨床データ
米国ではSDF製品は2014年に歯の知覚過敏を治療する医療機器として認可され、むし歯の進行抑制には適応外使用されてきました。今回の試験は、米国の子どもを対象に有効性と安全性を調べた大規模な臨床データを提供し、製造元がむし歯治療薬としてFDAに申請する際に利用できます。
研究責任者のマルゲリータ・フォンタナ氏は、子どもや家族が利用できるようにするには、有効性と安全性を示す厳密な証拠が必要だと述べています。共同研究責任者のアムル・ムルシ氏は、適応外の扱いが解消されれば、医療提供者による利用や保険支払い、製品品質の一貫性につながる可能性があるとの見方を示しました。
FDAの承認が実現すれば、小児科など歯科以外の診療現場での利用も広がる可能性があると研究者らは見ています。











