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出典: riken.jp

アルツハイマー病のマウスで、ミトコンドリアに集まる酵素GRK2の凝集を抑える化合物と、できた凝集を分解する化合物が、それぞれ脳の損傷や記憶低下を抑えました。いずれも動物実験の結果で、人への治療応用には安全性と有効性の検証が必要です。

GRK2の凝集がミトコンドリアに影響

GRK2は、細胞内の情報伝達やストレス応答に関わる酵素です。通常は細胞内の液状部分で働きますが、リン酸化という化学的な修飾を受けると、細胞のエネルギーを作るミトコンドリアへ移動することがあります。

アルツハイマー病に似た症状が出るマウスでは、脳内のGRK2の多くが凝集し、ミトコンドリアに集中していました。認知症の原因がアルツハイマー病と考えられる人4人の脳組織でも、同じパターンが観察されました。

凝集したGRK2は、ミトコンドリア外膜で物質の輸送を助けるタンパク質TOMM6に結合します。正常なGRK2はTOMM6を修飾して安定させますが、凝集したGRK2はその働きを失います。TOMM6も凝集し、ミトコンドリアの孔と相互作用しにくくなりました。

予防と分解、2つの化合物

研究チームは、GRK2が凝集する前に安定させる化合物CPD10を開発しました。CPD10は、活性を保った未リン酸化型のGRK2に優先的に結合し、凝集しやすい状態への変化を抑えるよう設計されています。

アルツハイマー病のマウスにCPD10を6カ月間投与すると、化合物は脳に到達し、ミトコンドリア上のGRK2凝集を抑えました。未投与のマウスと比べて、ミトコンドリアの状態が保たれ、アミロイドβプラークと有害なタウタンパク質の蓄積、脳細胞の減少が少なく、水迷路試験では空間記憶も保たれました。

もう一つの化合物CPD57は、細胞内で不要なタンパク質を分解するプロテアソームの働きを高め、既にできた凝集を取り除くことを狙います。高齢のアルツハイマー病マウスに14日間投与した試験では、GRK2とTOMM6の凝集が分解されました。6カ月間投与した場合は、アミロイドβプラークの蓄積と細胞老化の兆候が抑えられました。

既存薬とは異なる作用点

アルツハイマー病の薬には、ドネペジルなどのコリンエステラーゼ阻害薬や、NMDA受容体拮抗薬のメマンチンがあります。レカネマブは、凝集したアミロイドβを標的とする抗体です。

レカネマブの臨床試験では、軽度認知障害または軽度認知症の患者を対象に、脳内アミロイドβプラークの変化などが評価されました。FDAの審査資料によると、10 mg/kgを2週間ごとに投与した群では、79週時点のプラーク量が開始時点から平均73.5 Centiloids減少しました。

レカネマブが結合するアミロイドβプロトフィブリルに関連する物質の濃度は、脳脊髄液中で測定されています。アルツハイマー病による軽度認知障害や認知症の人では、その濃度が認知機能に問題のない対照者より高く、神経変性マーカーの総タウやニューログラニンとも相関しました。レカネマブ関連の研究がアミロイドβを標的とするのに対し、今回の化合物はミトコンドリアに関わるGRK2やTOMM6の凝集を狙っています。

マウスでの結果を人に当てはめる課題

アルツハイマー病研究で使われてきたマウスの中には、アミロイドβのもとになるAPPを過剰に発現させたモデルがあります。この方法で生じる影響の一部は人のアルツハイマー病では見られず、薬の効果を評価しにくくする可能性があります。

別のモデルでは、家族性アルツハイマー病に関わる変異をAPP遺伝子に導入したノックインマウスが使われています。このマウスではアミロイドβの蓄積と、患者の進行に似た認知機能の低下が観察されました。また、スウェーデン変異を持たないアルツハイマー病モデルにアイスランド変異を導入した実験では、APPが酵素BACE1に切断されにくくなり、アミロイドβプラークの蓄積が減りました。

今回のGRK2研究では人の脳組織でも同様の凝集が観察されましたが、対象は4人でした。マウスで見られた保護効果が人でも得られるか、またGRK2の凝集そのものと細胞内の正常なGRK2の不足のどちらが損傷に強く関わるかは、今後の検証が必要です。CPD10とCPD57を人の臨床試験に進める前に、安全性と有効性を調べる試験も必要です。