JPMorgan Chaseは、米国の安全保障と産業基盤を強化する取り組みで、初年度にスタートアップへ50億ドル(約7,900億円)を投資しました。10年間で最大100億ドル(約1兆6,000億円)を投じる計画の半分に1年で達し、当初の枠を拡大する可能性も検討しています。自動化工場や極超音速ミサイルの開発企業への出資は、融資や助言を中心としてきた同社が、従来の役割を広げる動きです。
10年間で最大100億ドル(約1兆6,000億円)の出資枠
JPMorgan Chaseの「Security and Resiliency Initiative」は、重要産業への融資や投資を通じて、米国の経済安全保障と供給網の強化を目指す取り組みです。2025年の発表では、10年間で1兆5,000億ドル(約240兆円)を融資・支援し、その一部として選定企業に最大100億ドル(約1兆6,000億円)を直接出資する計画を掲げました。
直接出資の対象分野は、供給網と先進製造、防衛・航空宇宙、エネルギーの自立と強靱化、先端・戦略技術の4領域です。重要鉱物、医薬品原料、ロボット、無人機、蓄電、人工知能、量子コンピューティングなど、27の小分類を設定しています。
初年度の50億ドル(約7,900億円)は、10年間の出資上限の半分に当たります。JPMorgan Chaseの共同社長ダグ・ペトノ氏は、投資機会が多いことから、当初の100億ドル(約1兆6,000億円)を超えて計画を広げる可能性があると述べました。JPMorgan Chaseは、初年度の投資先の大半を公表していません。
自動化工場と兵器開発企業への出資
投資先として公表されている企業の一つが、精密部品を製造するHadrianです。JPMorgan Chaseは8月、Hadrianの14億ドル(約2,200億円)の資金調達を主導する一社となりました。Hadrianは防衛、航空宇宙、海事分野向けの部品を作る自動化工場を運営し、カリフォルニア州の工場では従業員1人に対してロボット10台を稼働させています。
Hadrianの創業者クリス・パワー氏は、同社の工場ではAI、機械学習、ロボットを使い、従来は10人が担う仕事を1人で行えると説明しています。2025年、Hadrianと防衛企業Lockheed Martinは、ミサイル関連施設に機械加工と検査の生産セルを設置する覚書を結びました。セルには数値制御工作機械、ロボット、Hadrianの製造実行プラットフォームが含まれ、PAC-3 MSE、THAAD、PrSM、GMLRS向けの部品生産に用いる計画です。
もう一社は、極超音速ミサイル「Blackbeard」を開発するCastelionです。JPMorgan Chaseは8月の10億ドル(約1,600億円)の資金調達に参加し、同社のシリーズCを共同主導しました。Castelionはこの資金をBlackbeardの量産拡大に充てるほか、より長射程の攻撃兵器と防御システムの開発を進めるとしています。
極超音速兵器の飛行方式と生産計画
極超音速兵器は、音速の5倍以上で飛行する兵器です。そのうちブースト・グライド方式では、ロケットで滑空体を高高度へ運び、切り離した後、滑空体が目標へ向かいます。極超音速巡航ミサイルは別方式で、飛行中もエンジンを使って進みます。
弾道ミサイルの再突入体も極超音速に達し得るため、速度だけでは両者を区別できません。滑空体はロケットから分離した後に進路を変えられる点で異なります。極超音速兵器は弾道ミサイルより低い高度を飛び、機動する可能性があると、米国会計検査院(GAO)は説明しています。こうした軌道や機動性により、飛行経路の予測や迎撃が難しくなります。
CastelionはBlackbeardについて、2027年の配備を目標に掲げています。同社は米軍との契約を過去18カ月で5億ドル(約790億円)超確保したと発表し、ニューメキシコ州の生産施設などで製造能力を増やす計画です。資金調達ラウンドでは同社の評価額を130億ドル(約2兆1,000億円)としています。
投資が向き合う供給網と生産能力の課題
米国の防衛産業基盤には、国防総省へ資材、製品、サービスを供給する企業や施設が含まれます。米議会調査局(CRS)によると、小規模企業や大学の研究機関、大企業など多様な組織が参加しています。防衛装備の製造だけでなく、一般的な商用製品やITサービスの供給もこの基盤の一部です。
2022年の国防総省報告では、米国の航空宇宙・防衛分野の主要請負企業は、1990年代初頭の51社から5社に減少したとされています。CRSは、生産能力の制約や需要急増への対応、供給網の安全性を課題として挙げています。企業の集約が競争や供給網の強靱性にどう影響したかについては、異なる見方もあります。
国防兵站局の会議で、全米防衛産業協会のデービッド・ノークイスト会長は、国防兵站局が2016年から2022年に取引先を約22%、約3,000社減らし、そのうち2,300社が小規模企業だったと述べました。同氏は、同期間に国防総省の小規模企業数も43.1%減ったと説明しています。また、ロシアによるウクライナ侵攻では、対テロ作戦とは異なる高強度紛争で弾薬や部品が大量に消費される課題が表れたと指摘しました。











