
LSDを投与された人では、脳のアルファ波とベータ波の周波数が上がり、脳活動の信号はより複雑でフラクタルな構造を示しました。17人の脳磁図データを再解析した研究で、従来の「脳波が弱まる」という見方だけでは捉えにくい変化が報告されています。脳信号の変化と視覚上の模様との直接的な関連は実証されていません。
アルファ波は約2ヘルツ、ベータ波は約5ヘルツ上昇
研究チームは、17人が別々の日にLSDまたは生理食塩水のプラセボを受けた際の脳磁図(MEG)記録を再解析しました。MEGは、神経活動に伴って生じる微小な磁場をミリ秒単位で測定する方法です。参加者は目を閉じて静かに横になり、無音または音楽を聴く条件で測定を受けました。
LSDの投与後、安静時に優勢なアルファ波の周波数は約2ヘルツ、集中や意思決定などに関わるベータ波は約5ヘルツ上昇し、変化は大脳皮質の広い範囲に及びました。ヘルツは1秒あたりの振動回数を表します。今回の結果は、脳波の強さが下がる変化に加え、振動の速さ自体も変わることを示しています。
従来の解析では、あらかじめ定めた周波数帯の中で信号の強さを集計していました。波のピークが別の周波数へ移ると、固定された帯域で測る強さが、実際の振動の変化と混同される場合があります。今回の解析では、リズムのピーク周波数とその強さを分けて調べ、周波数の上昇と振動パワーの低下を別々に捉えました。
脳信号は複雑さとフラクタル性が増す
研究チームは、脳活動の背景にある「ノイズ」の周波数分布も調べました。通常は遅い周波数ほど強く、速い周波数ほど弱い傾向がありますが、LSDの投与後はこの傾きが平坦になり、周波数間の強さの差が小さくなりました。
脳信号に現れるパターンの多様さや、時間に沿った変化を測る指標も上昇しました。フラクタル性は、信号のパターンが異なる時間尺度で繰り返し現れる性質を指します。今回のデータでは、信号の複雑さとフラクタル次元がともに増加しました。
視覚体験に現れる反復模様と脳信号のフラクタル性には関連があるようにも見えますが、研究チームは直接的な結びつきを実証していません。測定したのは時間とともに変化する脳信号の構造であり、参加者が見た画像の構造ではないと、共著者のカリム・ジェルビは説明しています。
感覚や言語に関わる領域で変化
変化は、感覚、言語、感情、心的イメージに関係する脳領域で目立ちました。一方、運動皮質への影響は比較的小さく、変化は脳全体に一様ではありませんでした。この領域ごとの差は、知覚や内的な体験に関わる活動と、運動に関わる活動とで、影響の現れ方が異なることを示しています。
実験には、音楽を聴く条件も含まれていました。音楽を聴いているときにLSDの神経活動への影響が強まる傾向は見られず、背景信号の変動が大きくなり、複雑さが低下する可能性が示されました。ただし、この音楽による変化は厳密な統計解析では確かめられておらず、確定的な結果ではありません。
この研究で使われた記録は、以前に別の目的で収集されたデータです。研究チームは新しい解析方法を適用し、従来の分析では見落とされていた周波数のピークや信号の複雑さを評価しました。対象者は17人で、結果はこの規模と測定条件に基づいています。
5-HT2A受容体と知覚変化をめぐる研究
LSDが脳活動や知覚を変える仕組みには、セロトニン受容体の一種である5-HT2A受容体が関与すると考えられています。別の研究では、健康な参加者24人を対象に、プラセボ、LSD、5-HT2A受容体を遮断するケタンセリンとLSDの組み合わせを比較しました。ケタンセリンを併用すると、LSDによる主観的な作用と脳の接続性の変化が抑えられました。
その研究では、LSDによって連合領域の接続性が低下する一方、感覚・運動領域や視床の接続性は上昇しました。また、脳内の変化が現れた場所は、5-HT2A受容体に関係する遺伝子の発現分布と対応していました。これらは受容体の関与を支持する結果ですが、今回のMEG研究では受容体の働きを直接測定していません。
別のMEG研究では、LSD、シロシビン、ケタミンのいずれでも、自発的な脳信号の多様さが増加しました。LSDを含む各薬物で、信号多様性の変化と主観的な体験強度との間に、選択的な相関も報告されています。ただし、こうした相関は、脳信号の複雑さが幻覚の強さを引き起こすことや、治療効果につながることを示すものではありません。
治療効果の検証は別の課題
今回の研究は健康な参加者への単回投与を調べたもので、うつ病や不安症への治療効果を検証していません。脳活動の変化が患者の症状や治療の成績とどう関係するかは、別の臨床研究で調べる必要があります。
LSDの製剤は、全般性不安症とうつ病を対象とする第3相臨床試験で評価中です。第3相は、規制当局への承認申請前に行われる最終段階の臨床試験です。この試験の結果は、今回の健康な参加者を対象とした脳活動の研究とは別に評価されます。
研究チームは今後、同様の方法でLSD、シロシビン、DMTの脳への作用を比較する計画です。薬物ごとの神経活動の特徴や、個人の治療反応を予測できるかを調べることが目的です。










