
免疫療法を受けた患者の記録を比較
がんの免疫チェックポイント阻害薬による治療を始めた患者のうち、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を使っていた人は、別の抗不安薬を使っていた人より、2年間の死亡ハザードが低かったとする分析が公表されました。観察研究の結果であり、SSRIが生存期間を延ばしたとは結論づけられません。
研究チームは、2015〜2025年に免疫療法を始めた、うつ病または不安症と固形がんのある成人を電子診療記録から抽出しました。SSRI使用者1,567人と、ベンゾジアゼピン使用者1,567人を、患者背景など49項目で対応させて比較しています。
2年間に死亡が記録されたのはSSRI群で368人、ベンゾジアゼピン群で539人でした。割合はそれぞれ23.5%と34.4%で、死亡までの期間を考慮した分析では、SSRI群の死亡ハザードは約37%低い結果でした。
セロトニン輸送体を介した免疫への作用
SSRIは、神経伝達物質セロトニンを細胞内へ取り込むセロトニン輸送体(SERT)の働きを阻害します。2025年の前臨床研究を紹介した解説では、腫瘍内のCD8陽性T細胞にあるSERTが、周囲のセロトニンを減らし、T細胞の抗腫瘍反応を抑える仕組みが報告されています。
マウスの複数の腫瘍モデルでは、SERTを遺伝的に欠損させるか、SSRIで阻害すると、CD8陽性T細胞の抗腫瘍反応が高まりました。研究では、活性化したT細胞がセロトニンを作る一方でSERTも増やし、細胞外のセロトニンを取り込んで反応を弱める過程が示されています。
前臨床研究では、SSRIとPD-1阻害薬を併用すると、単独の免疫療法とは異なる経路を通じて抗腫瘍反応が強まり、免疫チェックポイント阻害薬に耐性を示すメラノーマモデルでも効果が見られました。別の解説では、併用によって腫瘍の増殖が抑えられ、腫瘍抗原に反応するCD8陽性T細胞や関連するシグナルが増加したと説明されています。
患者データと実験結果の位置づけ
今回の患者記録の分析では、個別に調べた5種類のSSRIすべてが低い死亡率と関連しました。また、SSRIもベンゾジアゼピンも使っていない患者との比較では、SSRI使用者の死亡ハザードは約25%低い結果でした。
研究チームは、がんゲノムアトラスの腫瘍サンプル8,272件も別に解析しました。20種類のがんのうち13種類で、SERTを作る遺伝子の発現が高いほど、T細胞の炎症スコアが低い相関がありました。このサンプル群は、生存記録を調べた患者群とは異なります。

前臨床研究の解説でも、複数のがん種の患者データで腫瘍内SERTの発現と生存との負の相関が紹介されています。ただし、実験モデルや別の患者データで見られた関係は、今回の患者における薬の効果を証明するものではありません。
因果関係の検証には臨床試験が必要
今回の分析では患者が薬に無作為に割り当てられておらず、記録された特徴をそろえても、病状や治療状況などの違いが結果に影響した可能性があります。ベンゾジアゼピンを使う患者は、がんの悪化に伴う不安や不眠を抱えていた可能性があります。また、SSRIの処方は腫瘍への作用ではなく、より包括的なケアを反映している可能性も指摘されています。
副作用の記録では、甲状腺機能障害はSSRI群の31.6%、ベンゾジアゼピン群の26.7%に見られました。一方、肝炎、肺臓炎、大腸炎には有意な差がありませんでした。
研究者らは、因果関係を確かめるには無作為化試験が必要だとしています。今後の試験では生存、がんの進行、副作用を評価し、薬の種類・用量・使用期間を検討する必要があります。











