米ノースウェスタン大学の研究チームは、マウスでカンナビノイドによる脅威の回避行動の増加に関わる神経細胞を特定しました。脳の扁桃体中心核にある特定の神経細胞が活発になり、その背景には、神経細胞の活動を抑える神経伝達物質の放出が減る仕組みが示唆されています。大麻に関連する不安を調べる研究ですが、今回の実験で測定したのは、マウスが捕食者のにおいに示す防御反応です。
捕食者のにおいへの回避とすくみが増加
研究チームは、カンナビノイド受容体を活性化する合成化合物CP55940を雄と雌のマウスに投与し、2時間後に行動を調べました。投与量は体重1キログラム当たり0.01、0.05、0.1、0.2、0.5ミリグラムで、通常時の動きと、捕食者のにおいを模した物質「2MT」に対する反応を比較しました。
においにさらされたマウスでは、投与の有無にかかわらず平均移動速度が下がりました。CP55940の投与で、動かずに身をすくめる反応が強まり、においのある区域に滞在する時間も用量に応じて減っています。
通常時の運動にも用量による違いがありました。最も低い0.01ミリグラムでは移動が活発になり、最も高い0.5ミリグラムでは抑えられました。0.2と0.5ミリグラムでは、においにさらす前にもすくみ反応が増えています。
回避行動に必要だった「SOM神経細胞」
研究チームは、不安や情動学習、ストレス反応に関わる脳領域である扁桃体中心核に着目しました。その中でも、ソマトスタチンを発現する「SOM神経細胞」の活動を、生きたマウスの細胞単位のカルシウム計測で調べました。
カンナビノイドの投与により、SOM神経細胞の活動と、脅威に対する防御反応が用量に応じて強まっています。SOM神経細胞は、カンナビノイドによって脅威の回避が増えるために必要でしたが、すくみ反応の増加には必要ではありませんでした。
脅威に関連する場所や行動を表す神経集団の活動パターンにも変化が見られました。研究チームは、単一の神経細胞の活動と神経集団の活動を合わせて調べ、カンナビノイドが脅威への反応に関わる回路をどう変えるかを検討しています。
神経伝達を抑える作用が、細胞の活動増加につながる仕組み
カンナビノイドが作用するCB1受容体は、神経細胞同士が情報を受け渡すシナプスの、信号を送る側の末端などに存在します。CB1受容体が活性化すると、神経伝達物質の放出が抑えられます。
体内で作られる内因性カンナビノイドも、この仕組みで神経伝達を調節します。信号を受け取る側の神経細胞で作られ、送る側へ逆向きに作用し、CB1受容体を介してグルタミン酸やGABAなどの放出を抑えます。
今回の研究では、切り出した脳組織でカンナビノイド受容体を活性化すると、SOM神経細胞への興奮性入力が抑えられました。一方、研究チームは、周囲の神経細胞から放出される抑制性の神経伝達物質GABAが優先的に減ることが、SOM神経細胞の活動増加を支えると考えています。
この場合、抑えられるのは神経活動そのものではなく、活動を抑える側の信号です。「ブレーキが外れる」という表現は、この抑制が弱まる仕組みに対応します。ただし、GABAの放出低下が活動増加を支えるという説明は、研究チームが実験結果から示した機序の解釈です。
人の実験ではTHCとCBDで異なる反応
今回のマウス実験で使われたCP55940に対し、人の研究では、大麻の成分であるTHCとカンナビジオール(CBD)の作用が比較されています。健康な男性15人を対象にした研究では、THCを10ミリグラム、CBDを600ミリグラム、または有効成分を含まないプラセボを、それぞれ別の機会に投与しました。
参加者が恐怖の表情をした顔を見る際の反応を調べると、THCは不安を増やし、CBDでは不安が減る傾向が見られました。強い恐怖の表情に対する皮膚の電気的な反応の変動も、THCでは増え、CBDでは減っています。
CBDを投与したときには、扁桃体などで血流に関連する脳活動の信号が弱まりました。一方、THCによる活動の変化は主に前頭部と頭頂部に見られ、両成分は恐怖刺激への反応に異なる影響を与えています。
CBDと不安に関する2020年の系統的レビューは、小規模な無作為化比較試験6件、症例シリーズ1件、症例報告1件を評価しました。対象研究の固定用量は6〜400ミリグラムと幅があり、不安の評価に改善が見られた一方、適切な投与方法を定めるには、投与と評価方法を標準化した研究が必要だと結論づけています。主な有害作用は疲労と鎮静でした。
動物で測る防御反応と、人のパニック発作
パニック障害の動物モデルを検討したレビューでは、人のパニック障害の中心的な現象を、自然に起こるパニック発作としています。多くの動物モデルは、目前の脅威が引き起こす防御反応との関連を想定し、特定の刺激による逃避行動などを測ります。
動物モデルには妥当性の面で限界がある一方、パニック障害の神経生物学や薬理学を理解する役割があるとレビューは評価しています。









