Lasvegassignflowers
写真: Rmvisuals / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

2017年のラスベガス銃乱射事件を生き延びた42人の記録から、強い脅威のもとでも記憶のすべてが同じように損なわれるわけではないことが分かりました。銃声やにおい、逃げるために把握した空間は鮮明に語られる一方、出来事の順序が抜けたり、時間が引き延ばされたように感じられたりする例もありました。

事件から1カ月以内の記録を分析

2017年10月1日、ラスベガスのルート91ハーベスト・フェスティバルで、約2万2,000人の観客に向けて銃撃が約10分間続き、60人が死亡、800人以上が負傷しました。研究チームは事件から2週間以内にオンライン調査を始め、会場にいた成人の生存者42人が事件から1カ月以内に書いた記録を分析しました。

参加者の74%は女性で、平均年齢は42.1歳でした。質問では、周囲で起きたことや見聞きした感覚、会場を離れるまでの経緯に加え、居場所、同行者、感情、理解したい事柄を尋ねました。対象となったのは、自由に思い出すだけの記録ではなく、質問に沿って書かれた文章です。

研究チームは文章をテーマごとに分類し、「状況の記憶」「身体的な負傷」「英雄的行動」「死を意識すること」の4つにまとめました。分析では診断の有無を比べず、生存者が何を記憶し、記録で強調したかを扱いました。事件を共有した人々の記録に共通する特徴と、個人ごとの違いを検討しました。

感覚と逃げ道は鮮明でも、時間は途切れる

銃声やにおいなどの感覚的な細部は、42人全員の記録に現れた唯一の特徴でした。銃声を花火と聞き違えたこと、火薬のにおい、自動小銃の音、事件後の歩道やドアにあった血痕などが語られました。空間についても、食べ物の屋台や芝生の椅子、行き止まり、近くのカジノや空港といった目印を手がかりに、逃げ道を把握する記述がほぼすべての記録にありました。

一方、時間がゆっくり進むように感じた、出来事が永遠に続くようだったという記述もありました。逃げる途中の一部が記憶から抜け落ちた例もあり、同じ人が別の場面では感覚や空間を鮮明に記していました。強いストレス時の記憶では、細部すべてが同じように強まるのではなく、脅威や脱出に関わる情報と順序の記憶とで異なる形を取る可能性があります。

2015年のレビューは、ストレスの影響が生じる時点によって異なると整理しています。ストレスを経験しながら学ぶ場合と、学習の前後に別のストレスを受ける場合では、記憶への影響が同じとは限らず、促進、低下、変化なしの結果が報告されています。学習後のストレスは長期記憶の固定を促すことがある一方、思い出す段階でのストレスは記憶の想起を損なう傾向があります。

脅威の中心情報と周辺情報をめぐる研究

自伝的記憶を扱った3つの実験では、参加者は強い衝撃を受けた出来事について、周辺的な細部より中心的な細部を多く記録しました。最も幸福だった出来事では同じ偏りが見られず、中心情報が目立つ「トンネル記憶」は否定的な感情を伴う記憶に限られると結論づけられています。この結果は、ラスベガス事件の生存者が危険や逃げ道を詳しく記した一方、出来事の順序を失った例があったことと重なります。

ただし、強いストレスが記憶の正確さ全般をどう変えるかについて、研究分野の見解は一様ではありません。目撃記憶の専門家37人、基礎的な記憶研究の専門家36人、一般の人109人を対象にした調査では、非常に高いストレスが目撃証言の正確さを損なうという見方に、両分野の専門家の多くが賛同しました。一方、記憶が形成される時点のストレスが記憶を高めるかどうかについては、専門家グループ間に違いがありました。

この調査は専門家や一般の人の見解を尋ねたもので、個々の生存者の記憶の正確さを測った実験ではありません。ラスベガス事件の研究も、記録を客観的な事件記録と照合して正確さを判定するのではなく、質問に沿った自己申告の文章を分析しています。そのため、記録に見られた鮮明さや抜けを、すべての目撃証言に当てはまる性質として扱うことはできません。

負傷や助け合いも記憶の一部に

身体的な負傷は、本人が負傷した場合も、他者の負傷を目撃した場合も、ほぼすべての記録に登場しました。銃弾が当たった脚の位置や通り道を細かく述べた人もいましたが、その解剖学的な精密さには、後の治療で得た情報が影響した可能性も指摘されています。ほかの記録には、倒れた人が撃たれたと気づかずにつまずいた経験や、現場を戦場のように感じたことがありました。

およそ半数から多数の参加者は、自ら危険を負って他者を助けた行動を記しました。銃弾が地面に当たる中で傷口を押さえる、ベルトを止血帯にする、負傷者を銃撃から守るため覆いかぶさるといった例がありました。ショックを受けた見知らぬ人に着物を掛け、手を握るなど、身体的な処置に限らない支援も語られています。

参加者のおよそ半数は、自分が死ぬ可能性に直面した場面にも触れ、恐怖や混乱、家族へ愛情を伝えようとする切迫感を記しました。一部には突然の安らぎを感じたという記述もありましたが、多くは死を前にした穏やかさではなく、恐れや混乱を中心に語っていました.