Deep Sea Drilling Project microfossils
写真: Hannes Grobe ( talk ), Alfred Wegener Institute / CC BY 3.0 / Wikimedia Commons

太平洋のクラリオン・クリッパートン海域の海底堆積物から、1万1742種のウイルスが確認されました。研究チームは、その大半が既存の参照データベースに登録されていないウイルス群であり、宿主となる微生物の代謝や金属ストレスへの適応に関わる可能性を報告しました。深海採掘の影響を調べるための生態系の基準情報となる研究です。

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写真: Hannes Grobe ( talk ), Alfred Wegener Institute / CC BY 3.0 / Wikimedia Commons

採掘候補海域の堆積物からウイルス群を解析

クラリオン・クリッパートン海域は、ハワイとメキシコの間に広がる深海域です。マンガンやコバルト、ニッケルなどを含む多金属団塊が分布し、国際的な鉱物探査の対象になっています。

Hou氏らの研究チームは、2023年と2024年に水深約5000メートルの海底から堆積物を採取し、DNAを解析しました。その結果、1万1742種のウイルスを特定しました。研究論文では、ウイルス群の99%を超えるものが、現在の参照データベースに登録されていないと報告されています。

ここでいう「ウイルス群」は、遺伝子情報をもとに分類した集団です。ウイルスを含む環境全体を調べる「ウイルス叢」の解析から、海底の場所ごとに異なるウイルス群が存在する可能性も示されました。研究チームによると、海溝や熱水噴出孔など、別の深海環境で確認されたウイルス群との重なりは小さかったといいます。

微生物の代謝や金属ストレスとの関連

研究チームが推定したウイルスと宿主の関係は、炭素、窒素、リン、硫黄、金属の循環に関わる幅広い原核生物に及びました。原核生物は、細胞内に核を持たない細菌や古細菌などの微生物です。

一部のウイルスは、感染した宿主の代謝に影響する遺伝子を持つ可能性があります。こうした遺伝子は「補助代謝遺伝子」と呼ばれ、感染中にウイルスが宿主の代謝を変える働きと関連します。クラリオン・クリッパートン海域の研究では、ウイルスが微生物の代謝や生存に影響し、金属ストレスへの適応を助ける可能性が示されました。遺伝子交換の解析からも、ウイルスが宿主の金属ストレスへの適応を促す可能性が示唆されています。

別の深海環境であるマリアナ海溝のチャレンジャー海淵でも、堆積物から1628種のウイルスが特定されました。この研究では、ウイルスが宿主の炭水化物や硫黄の代謝に関わる可能性が報告されています。海域ごとに異なるウイルス群が見つかる一方、宿主の代謝に影響しうる点は共通しています。

採掘後の環境変化を調べる基準情報に

クラリオン・クリッパートン海域では、堆積物をかき乱す採掘によって、ウイルスや宿主微生物が支える生態系がどう変化するかが研究課題です。今回のウイルス群のデータは、採掘前の微生物生態系を記録し、今後の環境影響評価に使う基礎情報です。

別の調査では、クラリオン・クリッパートン海域で1979年に行われた採掘試験の跡を44年後に調べたところ、海底には団塊が除かれた幅8メートルの帯と、機械が通った溝が残っていました。動物群によって回復状況は異なり、小型で移動する動物の一部には再定着が見られた一方、海底に固定して暮らす大型動物は試験跡で依然として少数でした。

過去の採掘試験を対象とした調査は、堆積物や動物群の変化を扱い、今回のウイルス研究が示す微生物の応答を直接調べたものではありません。ウイルスと宿主微生物の変化を評価するには、採掘前の状態と採掘後の変化を継続して比較することが課題です。