紙と糸で動く遠心分離機
スタンフォード大学の研究チームが開発した「paperfuge」は、紙や糸などで作る手動遠心分離機です。材料費は約20セント、重さは2グラムで、電力を使わずに血液を分離できます。
研究で実証された回転数は毎分12万5,000回転、遠心力は3万Gです。全血から血漿を分離するのに1.5分未満、マラリア原虫の分離には15分かかりました。
遠心分離機は、試料を回転させ、密度の違いに応じて成分を分ける装置です。血液では赤血球が下側に集まり、血漿は上側へ分かれます。paperfugeは、電源がない場所でも検査前の処理を行えるよう設計されました。
糸を引く力が回転に変わる仕組み
paperfugeは、ボタンに糸を通して引く昔ながらの回転おもちゃ「ブザー(whirligig)」の仕組みを応用しています。糸をねじった状態から両端を引くと、糸がほどける動きで円盤が回転し、その勢いで糸が反対向きに巻き直されます。
この「ほどける・巻き直す」動作を繰り返すことで、手で直線的に引く力が高速回転に変わります。異なる構成のブザーを解析した研究では、円盤の慣性や糸の張力などを含む運動モデルを調べ、周期的な力の加え方と回転の関係を検討しました。
ブザーの動きは、糸の伸びやねじれ、円盤の形状などに左右されます。糸と円盤を使った実験では、手動で毎分20万回転に達する円盤も確認されました。この結果はpaperfuge自体の性能値ではなく、同じ原理を使う別の装置で得られたものです。
マラリア検査で担う前処理
paperfugeを使った実験では、血液を毛細管に入れて回転させ、血漿やマラリア原虫を分離しました。マラリア検査では、アクリジンオレンジという色素を塗った毛細管を使い、顕微鏡で光る原虫を観察する手順も示されています。
この方法は、遠心分離によって試料を観察しやすい状態にする検査前処理を支援します。想定用途には、貧血の指標となるヘマトクリット測定や、マラリアなどの診断があります。
マラリアの別の検査法であるQBC法では、アクリジンオレンジで染色した血液を専用の毛細管内で遠心し、顕微鏡で観察します。QBC法では、検体の採取と染色の後に5分間遠心し、蛍光顕微鏡、または光源などを追加した光学顕微鏡で確認します。paperfugeの実験でも、分離後の毛細管を顕微鏡で見る工程が使われました。
現場利用に向けた検証
paperfugeは、診断に必要な処理のうち、血液の遠心分離を担います。マラリア原虫の検出では、色素を使った試料準備と顕微鏡観察を組み合わせる方法が示されています。
スタンフォード大学の研究チームは、マダガスカルで現地の協力機関とマラリア診断の実地検証を進めていました。
研究では、紙製の円盤に加えて、プラスチックや3Dプリント樹脂などを用いた遠心マイクロ流体デバイスも示されました。研究論文は、こうした電力不要の遠心分離機が、医療現場での検査のほか、野外調査や科学教育にも使える可能性を挙げています。











