
運動をやめると筋肉量や持久力は低下しますが、過去のトレーニングによる細胞の変化が残り、再開後の反応に関わる可能性があります。マウスでは筋肉の成長や代謝に関する変化が示され、人では筋細胞の核やDNAの状態が保たれる例が報告されています。
再トレーニングしたマウスで筋肉の成長を確認
研究でいう「筋肉の記憶」とは、以前と同じ運動刺激を受けたときに筋肉が異なる反応を示す現象です。運動を続けて得た筋肉の大きさなどが、休止中もそのまま保たれるという意味ではありません。
マウスを使った研究では、4週間の持久運動の後に運動を休む期間を設け、再び運動させました。再トレーニングしたマウスは、運動歴のないマウスより筋肉量が大きく、筋線維も太くなりました。
再トレーニング後の筋肉では、ミトコンドリアのエネルギー産生に関わる遺伝子やタンパク質に変化が見られ、脂肪酸を酸化する能力も上昇しました。高脂肪食を与えた条件でも筋肉の成長が促され、体重増加が抑えられました。
人ではDNAの状態や筋細胞の核に変化
人を対象にした高強度インターバルトレーニングの研究では、健康な20人が2カ月間の運動を2回行い、その間に3カ月の休止期間を設けました。最大酸素摂取量はどちらの運動期間でも改善しましたが、再開時の改善幅は初回を上回りませんでした。
筋肉のDNAメチル化を調べると、運動後に低下した状態が休止期間にも残る部位が多数ありました。5つの遺伝子では、休止中もメチル化の低下と遺伝子発現の上昇が保たれていました。
別の筋力トレーニング研究では、12人が10週間の運動、16週間の休止、10週間の再トレーニングに参加しました。休止後も、以前鍛えた筋肉では筋線維内の核の数が維持され、未経験側と比べて一部の筋線維で33%多く残っていました。
記憶を保つ仕組みは一つに定まっていない
筋線維内の核は、筋肉の成長を支えるタンパク質を作るための情報処理に関わります。運動で増えた核が休止中も残れば、再開時に筋肉が成長しやすくなるという考え方があります。
もう一つの候補はエピジェネティクスです。これはDNAの配列自体を変えずに、遺伝子の働きやすさに関わる状態を指します。運動後に起きたDNAメチル化の変化が休止中も残る例が報告されています。
ただし、人の筋肉で核が保たれた研究でも、再トレーニングによる筋肥大の優位性は明確ではありませんでした。筋細胞の核の保持やDNAの状態が、運動再開後の成果にどの程度つながるかは、研究によって結果が異なります。
肝臓や次世代への影響はマウスの知見が中心
運動の記憶は筋肉以外にも及ぶ可能性があります。マウスと人の再トレーニングでは、肝臓から血中へ放出されるカルボキシエステラーゼという酵素群が増えました。この酵素は脂質を分解し、筋肉が取り込みやすい形で脂肪を供給します。
親マウスが3〜4週間の持久運動をすると、運動をしなかった親の子と比べ、子の血糖値の悪化や過剰な体重増加が出生後1年間抑えられました。この結果はマウスで得られたもので、親の運動が人の子どもに同じ影響を与えることを示すものではありません。
運動を休んだ後にも細胞の変化が残るという知見は、再開時の体の反応を調べる手がかりになります。過去の運動が現在の運動に置き換わるわけではありません。









