
マウスの脳幹にある青斑核は、ノルアドレナリンを脳全体へ一様に送るのではなく、神経細胞の集団ごとに異なる領域へ信号を送っていました。学習課題で活動する細胞群も確認され、注意や行動に関わるこの神経系の働きを経路ごとに捉えた研究成果です。
青斑核の細胞が脳の異なる領域へ信号を送る
青斑核は脳幹の奥にある小さな神経細胞群です。ここで作られるノルアドレナリンは、注意や学習のほか、心拍やストレスへの反応にも関わる化学伝達物質です。
研究チームはマウスの脳画像や神経活動を記録し、遺伝学的手法と行動実験を用いて、青斑核の神経細胞が複数の経路を通じて信号を送る仕組みを調べました。上部の背側にある細胞は主に大脳皮質や前脳へ、下部の腹側にある細胞は主に脳幹や脊髄へつながっていました。
この配置は、ノルアドレナリンの信号が特定の行き先に届く仕組みと対応しています。細胞の位置や接続先に加え、遺伝子の発現パターンにも背側と腹側の違いが見つかりました。
学習課題と周囲への反応で異なる活動
マウスが意思決定課題に取り組み、望ましくない結果の後に選択を変える場面では、皮質へつながる背側の神経細胞の活動が高まりました。この観察から、背側の細胞群が学習に関わることが示唆されています。
一方、腹側の細胞群は、報酬の可能性を示す合図をマウスが無視する直前に活動が上昇しました。この活動は、周囲の機会に動物が反応するかどうかに関わる可能性があります。
2005年の総説は、サルの研究とモデルをもとに、青斑核の活動を課題に関わる一時的な活動と持続的な活動に分けて説明しています。著者らは、一時的な活動が課題中の行動を促すという仮説を提示しました。また、持続的な活動は、現在の課題から離れて別の行動を探す状態と結び付くと論じています。この説明は、マウス研究とは異なる動物と研究枠組みに基づいています。
ノルアドレナリンとドーパミンの役割
ドーパミンは、習慣形成に関わる大脳基底核へ信号を送る化学伝達物質です。ノルアドレナリン系とドーパミン系が連携して学習を支え、複数の複雑で抽象的な概念の習得に関わる可能性があります。
総説の著者らは、青斑核のノルアドレナリン系が、既知の報酬源を活用することと別の機会を探すことの調整に関わるという理論を提案しました。また、前帯状皮質や眼窩前頭皮質から青斑核への入力が、その活動の切り替えに関わるというモデルを示しています。これらは総説で提示された理論で、今回のマウス実験の結果とは区別されます。
薬への示唆とマウス研究の範囲
ノルアドレナリンに作用する現在の治療薬は複数の脳回路に影響し、ある領域で望ましい作用があっても、別の領域では望ましくない作用が生じる場合があります。青斑核の経路ごとの構造を詳しく理解すれば、特定の症状に関わる回路を選択的に標的とする治療法の研究につながる可能性があります。
アトモキセチンは、ノルアドレナリン再取り込み阻害薬として、注意欠如・多動症(ADHD)の治療に用いられます。添付文書によると、その治療効果はシナプス前のノルアドレナリントランスポーターを選択的に阻害する働きに関連しています。脳内でノルアドレナリンの再取り込みを抑える作用と、青斑核が複数の回路へ信号を送る仕組みは、異なる段階の働きです。
今回の結果はマウスで得られたもので、人間の脳で同じ経路や行動上の役割が確認されたことを示すものではありません。研究チームは全脳画像で約3万5,000個の神経細胞を調べ、約40万個の細胞の遺伝子プロファイルを解析しました。再構成した神経細胞の軸索は平均約35センチで、1本は全長70.32センチに達しました。










