Amyloid beta fibrils
写真: Boku wa Kage / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

アミロイドβに加えてP3を調べる動き

アルツハイマー病の研究では、中心的に扱われてきたアミロイドβ(Aβ)に加え、関連するペプチド「P3」の作用も調べられています。P3は長く無害と考えられていましたが、研究では凝集体を形成し、神経細胞に影響する可能性が示されています。

カリフォルニア大学サンタクルーズ校の生化学者ジェヴェニジ・ラスカトフ教授は、P3とAβの相互作用が、脳内での蓄積や毒性に影響する可能性を指摘しています。P3が患者のアルツハイマー病にどう関与するかは、今後の研究課題です。

Aβは、細胞膜に埋め込まれたアミロイド前駆体タンパク質(APP)が酵素で切断されて生じます。研究では特に、アミノ酸40個のAβ40と42個のAβ42が注目され、凝集しやすいAβ42が長年、治療薬開発の主な標的となってきました。

APPから生じる二つのペプチド

P3もAPPに由来しますが、生成される順序が異なります。Aβはβセクレターゼ、続いてγセクレターゼによる切断で生じる一方、P3はαセクレターゼの切断後にγセクレターゼが働く経路で生じます。

P3は水に溶け、アミロイド状の沈着物を作らず、細胞にも毒性を持たないと長く考えられてきました。ラスカトフ教授の研究チームは、こうした見方が十分に検証されていないとして、P3の性質を調べました。

チームは過去5年間に発表した3本の主要研究で、P3がAβと同程度以上に凝集し、実験ではAβより速く凝集体を作ることを示しました。また、P3は神経細胞に有害となる可能性があり、その毒性はAβより低いと報告しています。英国の独立した研究グループもチームの結果を確認し、知見を広げました。

治療研究で残る課題

アルツハイマー病の薬を調べた臨床試験は400件を超え、その多くがAβを標的としてきました。既存のコリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬は一部の症状を一時的に和らげますが、病気の進行は止めません。

レカネマブやドナネマブなどの抗体薬は、脳内のAβを除去するために開発されました。Aβを標的とする治療では、脳の浮腫や出血などのARIA(アミロイド関連画像異常)が課題となっており、APOEε4遺伝子を持つ人では発生率が高い傾向が臨床試験で報告されています。

レカネマブの試験を扱ったレビューでは、ARIA-E(浮腫)の発生率はAPOEε4を持たない人で5.4%、ヘテロ接合体で10.9%、ホモ接合体で32.6%でした。ARIA-H(脳の微小出血または出血)は、それぞれ11.9%、14.0%、39.0%でした。ドナネマブの試験では、ARIA-Eが非保有者で15.7%、ヘテロ接合体で22.8%、ホモ接合体で40.6%と報告されています。

P3の再評価が意味するもの

ラスカトフ教授はP3を「アミロイドα」またはAαと呼ぶ案を示しています。Aβとは別の凝集性ペプチドとして区別し、その性質を研究で扱いやすくするためです。

ラスカトフ教授によると、同研究室の成果を引用した査読付き論文のうち少なくとも4本が、P3は無害で沈着物を作らないという根拠として研究を挙げていました。教授は、自分たちの実験結果とは逆の解釈だと述べています。

UCLA名誉教授でアルツハイマー病研究者のデイヴィッド・テプロウ氏は、研究の再評価が基礎科学と臨床研究の双方に影響すると評価しています。P3の凝集性やAβとの相互作用を調べる研究が進めば、病気に関わる過程や治療の研究対象を広げる手がかりになる可能性があります。