Image Analysis | Cell Sciences Imaging Facility (CSIF)
出典: microscopy.stanford.edu

スタンフォード大学の研究チームは、蛍光標識を使わずに生きた細胞内の構造を観察する顕微鏡「iISM」を開発しました。横方向の解像度は約120ナノメートルで、細胞内の動きを捉えられます。従来の共焦点顕微鏡より照明光を抑えられるため、蛍光顕微鏡の分子特異性と組み合わせ、細胞を長時間観察する研究への活用が見込まれています。

蛍光標識を使わず細胞内の動きを観察

iISMは、細胞内の微細な構造が散乱させた光を検出します。蛍光色素や遺伝子タグで対象を光らせる必要がなく、小胞体、細胞骨格、ミトコンドリア、小胞などを生きた細胞内で観察できます。

蛍光顕微鏡は、蛍光物質が光を吸収して発する信号を手掛かりに、特定の分子や構造を見分けます。一方、標識を使わないiISMは、細胞内の構造を周囲との関係や動きとともに捉えます。

蛍光標識は観察中に信号が弱まることがあり、導入が難しい場合や、標識自体が対象の振る舞いを変える場合もあります。iISMは標識を加えずに観察でき、研究チームは細胞内の構造をより自然な状態で追跡する用途を想定しています。

2つの撮像方式を組み合わせ約120ナノメートルを実現

iISMは、干渉散乱顕微鏡とイメージスキャニング顕微鏡の考え方を組み合わせています。前者は細胞内の微細構造が散乱させる弱い光を参照光と干渉させて捉え、後者は複数の検出位置から得た情報を画像に再構成します。

従来の共焦点顕微鏡では、小さなピンホールで焦点外の光を除きますが、光子の多くを捨てることになります。iISMは単一検出器の代わりにカメラ型の検出器アレイを使い、走査位置ごとに複数の見え方を集め、計算処理で画像にまとめます。

再構成した画像の横方向の解像度は約120ナノメートルです。研究チームは論文で、従来の共焦点顕微鏡に対し、回折限界のスポットあたりの入射照明光を約10分の1に抑えて撮像できると報告しています。照明による細胞への損傷を抑え、長時間の観察につなげる狙いがあります。

蛍光顕微鏡とは役割を補い合う

蛍光顕微鏡の強みは、蛍光標識によって分子を特定しやすいことです。これに対し、iISMは標識なしで複数の細胞内構造とその動きを捉えます。研究チームは、両方式を組み合わせることで、分子の特定と細胞内の状況把握を両立させる考えを示しています。

研究チームは論文で、iISMと共焦点蛍光顕微鏡を組み合わせられることも示しました。固定細胞の細胞骨格を蛍光撮像と関連づけて観察したほか、生細胞では小胞体などの構造を標識なしで捉えています。

がん治療薬や植物と微生物の相互作用を観察

スタンフォード大の研究者は、iISMを使ってがん治療薬が細胞に取り込まれる過程を調べています。細胞と薬剤の相互作用を追う研究で、今後は薬剤開発などへの応用が想定されています。

別の共同研究では、植物細胞、菌類、細菌が相互作用する様子をリアルタイムで観察しています。植物と微生物の関係を細胞レベルで追う取り組みです。

マラリア感染にさらされた赤血球の形状変化を調べる計画もあります。研究チームは装置の改良と、より多くの研究者が利用できるようにする作業を続けています。