
X染色体に残る交雑の偏り
現在、アフリカ以外にルーツを持つ人々のゲノムには、ネアンデルタール人由来のDNAが平均約2%含まれています。しかし、X染色体ではその割合が低く、性染色体以外の染色体である常染色体とは異なる分布を示します。
X染色体は母親から必ず受け継ぎますが、父親から受け継ぐのは子どもが女性の場合です。そのため、集団全体でみると、X染色体の約3分の2は母親、約3分の1は父親に由来し、交雑した個体の性別の組み合わせをたどる手がかりになります。
ネアンデルタール人のX染色体を調べた研究では、現生人類由来の祖先DNAが62%多く見つかりました。解析モデルは、交雑の多くがネアンデルタール人の男性とホモ・サピエンスの女性の組み合わせだった可能性と整合しています。
遺伝記録が示すこと、示さないこと
この性差は、少なくとも約20万年前と約4万5,000年前の二つの交雑期に見られます。後者の時期の交雑は、現在の非アフリカ系集団に残るネアンデルタール人DNAの大半につながったとされています。
研究チームは、性別による移動の違いを想定するより、交配相手に偏りがあったとするほうがモデルに合うとしました。ただし、遺伝記録に残るのは子孫を残した交雑であり、性的な接触そのものや当事者の意思までは記録されません。
妊娠や胎児の生存率の差も、同じ遺伝的な偏りを生む可能性があります。研究者は、ネアンデルタール人の母親が交雑した胎児を妊娠した場合、胎児の成長制限や妊娠高血圧症候群のリスク上昇が起きる可能性を挙げていますが、性差の原因を確定する証拠にはなっていません。
化石と遺物が示す人々の居住
ゲノム上の交雑は、異なる集団の間で子孫を残す交流があった証拠です。一方、考古学的証拠は、人骨や石器などの出土場所と年代から、ある地域にどの集団がいたかを示します。両者は異なる種類の証拠であり、交雑の記録だけでは、二つの集団が同じ場所で暮らした状況までは分かりません。
ブルガリアのバチョ・キロ洞窟で見つかった人骨3点は、約4万5,930〜4万2,580年前のものと測定されました。ゲノム解析では、3人全員に数世代前のネアンデルタール人の祖先がいたことが示されました。これは、遺物群と直接関連づけられる初期後期旧石器時代の人々が交雑していた証拠です。
ただし、この発見が直接示すのは、その人々の家系にネアンデルタール人の祖先がいたことです。人骨と遺物が同じ洞窟で見つかったことは現生人類の居住を示しますが、それだけでネアンデルタール人も同じ時期にその地点で暮らしていたとは証明できません。
地域ごとに異なる接触の痕跡
ドイツのラニスでは、約4万8,000年前の地層から見つかった人骨のDNAがホモ・サピエンスのものと判定されました。人骨は北ヨーロッパ各地で知られるLRJ型の石器とともに出土しており、この石器を現生人類が作った可能性を示す証拠になっています。
ラニスやバチョ・キロなどの発見は、現生人類が単一の大規模な移住でヨーロッパに広がったという見方に対し、小集団が段階的に移動し、ネアンデルタール人のいた地域と重なる時期があったという見方を支えています。一方、石器の型だけから製作者を特定することには異論もあり、LRJ型石器が現生人類だけのものだったかは議論が続いています。








