
AI向けデータセンターの電力需要を見込み、米国の大手IT企業は原子力発電所の再稼働や既存設備の増強を進めています。一方、供給力を確保する市場では、データセンターの需要予測が価格を押し上げ、家庭の電気料金にも影響しています。発電所の整備にかかる時間と、需要予測に基づく費用の負担先が課題です。
既存の原発から電力を確保する契約
Amazonはメリーランド州のカルバートクリフス原発から690メガワット分の電力を確保する契約を結びました。このうち190メガワット分は、2030〜2032年に追加される発電能力です。Googleも米国内で890メガワット分の原子力発電能力を追加する契約を結びました。いずれも新しい原子炉を建設する計画ではありません。
発電能力の増強を担うコンステレーション・エナジーは、イリノイ州、ペンシルベニア州、ニュージャージー州にある原子炉11基の改修に43億ドル(約6,800億円)超を投じます。マイクロソフトはスリーマイル島の稼働していない原子炉から20年間電力を購入する契約を結びました。米エネルギー省は、停止中の3発電所の再稼働を支援するため最大44億ドル(約7,000億円)の融資を提供します。
原子力は時間帯を問わず発電でき、データセンターへの安定供給を支える選択肢です。ただし、既存設備の再稼働や改修でも、供給開始が2027年以降になる場合があります。新しい大型原発の建設には、計画決定から10年以上かかります。小型モジュール炉の計画も、電力供給は2030年代初め以降と見込まれています。
容量市場の需要予測が料金に及ぼす影響
PJMは米国13州の一部または全域とワシントンD.C.で送電網を運営し、6,500万人超に関わる電力市場を管理しています。容量市場では、将来の需要に備えて発電能力を確保するため、電力会社などの買い手が発電事業者から供給力を調達します。オークション価格は将来の電気料金に影響し、実際の料金には時間差を伴って反映されます。
PJMの容量オークションでは、需要予測に応じて必要な発電能力を確保します。2024年7月のオークション価格は大半の地域で1メガワット・日当たり269.92ドル(約4万3,000円)となり、前回の約10倍でした。IEEFAによると、2026〜2027年度の価格は1メガワット・日当たり329.17ドル(約5万2,000円)に上がり、データセンター需要の予測が価格上昇の一因になっています。
IEEFAは、2025〜2026年度のオークション価格上昇分のうち、データセンターが約93億ドル(約1兆5,000億円)分を占めるという市場監視機関の推計を紹介しています。ワシントンD.C.では、住宅利用者の月額料金が2025年6月から平均21ドル(約3,300円)上がり、そのうち約10ドル(約1,600円)は容量市場価格の上昇によると、消費者保護機関が見積もりました。データセンターが稼働する前から、需要予測に基づく費用が電気料金に反映される場合があります。
電力需要の見通しと供給構成
米国の電力研究機関EPRIは、データセンターの電力消費が2023年の米国需要の約4%を占め、2030年には想定シナリオにより5〜11%になると試算しました。データセンターの負荷を柔軟に移せる場合、追加の安定供給力を抑えられ、電力供給費用を全国平均で1メガワット時当たり4〜7ドル(約630〜1,100円)削減できるとモデル分析しています。
EPRIのモデルでは、データセンター需要を賄う電源構成は、政策、企業の調達目標、負荷の柔軟性によって変わります。短期には天然ガス火力の稼働増加や新設が見込まれ、長期には太陽光、蓄電池、風力、天然ガスなどを追加するシナリオがあります。脱炭素目標や企業の調達方針を想定した場合、新たな原子力や二酸化炭素回収を伴う発電もモデルに含まれます。
ゴールドマン・サックスの調査部門は、太陽光と風力を蓄電池と組み合わせればデータセンター需要の約80%を賄える可能性がある一方、24時間の供給には安定電源が必要だと分析しています。また、新設原発には専門人材の不足、許認可、ウラン調達の課題があり、短期の供給では天然ガスや再生可能エネルギーがより現実的な選択肢になるとの見通しを示しました。再生可能エネルギーに蓄電池や系統電力を組み合わせる方法も検討されており、各電源の供給時期や安定性が選択を左右します。
電力を使う企業と利用者の負担
PJMでは、将来の発電能力を確保する容量市場の費用が、電気料金を通じて利用者に転嫁されます。独立市場監視機関の推計では、直近4回のオークションでデータセンター需要に関連する容量費用は約294億ドル(約4兆6,000億円)でした。現在の傾向が続けば、2028年までにPJM管内の一般家庭の月額電気料金が70ドル(約1万1,000円)増える可能性があると、天然資源防衛協議会は試算しています。
データセンターによる需要増が見込まれる一方、発電所や送電設備の整備には時間がかかります。EPRIの分析では、電力網への接続に複数年を要することや、将来の需要予測に不確実性があることも指摘されています。電源の増設費用の負担先に加え、需要予測が外れた場合の契約や費用の扱いも、電力事業者と利用者に関わる課題です。
湾岸諸国でもAIデータセンターの大規模計画が進んでいます。カタールでは投資額200億ドル(約3兆2,000億円)の合弁事業が、約300メガワットの第1段階から最大約1.5ギガワットへ拡大する構想です。アラブ首長国連邦は最大5ギガワット、サウジアラビアは約2ギガワットのデータセンター容量を目標にしています。こうした計画では、電力料金の設定や新たな発電能力の費用負担が、データセンター以外の電力需要にも関わります。











