
軌道上のTPUがGemma 4で初応答
Googleは10月1日に打ち上げたProject Suncatcherの試作衛星で、軌道上のAI応答を地上局へ送る試験に成功しました。衛星に搭載したTPU(機械学習向けプロセッサ)でGemma 4を動かし、宇宙から見た地球を題材にした俳句を生成しました。
Googleのトラビス・ビールズ氏は、この応答を「データセンター級TPU」による軌道上で初のAI応答と位置づけています。衛星は地上局から受け取ったプロンプトに応じて文章を生成し、ノルウェーのスバールバル諸島付近を通過した際に詩をダウンリンクしました。
試運転では、衛星のホストシステムとTPUトレイを起動し、初期の機械学習テストを実施しました。俳句の後には宇宙を題材にしたリメリックや、搭載システムの技術状態を報告するテレメトリ用プロンプトも試しています。
既存の衛星AI実証との違い
衛星上でのAI推論はSuncatcher以前にも実証されてきました。JPLとUbotica Technologiesが取り組むCogniSAT-6/HAMMERは、2024年3月に打ち上げられた6U CubeSatで、Myriad X画像処理装置を使って衛星上の画像・スペクトルデータを解析する計画です。
この実証では、雲、水域、火山活動、山火事などを識別する深層学習モデルや、地表の鉱物・植生を調べるスペクトル解析が扱われています。衛星上で解析することで、現象を検知した後の追加観測を指示したり、使えないデータを除いて地上へ送るデータ量を減らしたりする用途が示されています。
JPLの2025年の報告では、CogniSAT-6で雲、水域、熱活動を分類するモデルの飛行実証が完了し、30回を超える実行が行われました。別の衛星ION SCV-004でも、2025年2月10日時点でスペクトル解析とCNNの計9モデルを実行しています。 Suncatcherの今回の試験は、地球観測画像の分類ではなく、データセンター向けTPUでGemma 4の文章生成を軌道上から応答する点が異なります。
打ち上げ費用と将来構想
約20トークンの俳句をGoogle Cloud APIで生成した場合、Gemma 4 26Bの料金に基づく費用は約0.000012ドルと見積もられます。これは入力トークンの費用を除いた計算です。
対して、衛星の打ち上げ費用は大きく異なります。The Registerは、Starlink衛星の質量を参考にSuncatcher衛星を約500キログラムと仮定し、商用打ち上げ価格を1キログラム当たり約7,000ドル(約110万円)として、軌道投入費を試算しています。
Googleは、低軌道への打ち上げ費用が1キログラム当たり200ドル(約3万1,000円)まで下がれば、衛星の耐用期間にわたる打ち上げ費用を、米国の地上データセンターの電力支出と同程度にできる可能性があると計算しています。同社はSpaceXが2035年ごろまでにその価格を実現すると予測し、実現に先立って試作を進める考えです。
放射線試験と次の段階
軌道上でTPUを使うには、熱や放射線の影響を調べる必要があります。Googleは次の段階として、軌道上でTPUが熱ストレスや放射線にどのように耐えるかを試験する予定です。
Googleが公表した地上試験では、Trillium Cloud TPUとAMDのホストサーバーに67 MeVの陽子線を照射しました。高帯域幅メモリでは、累積2 krad(Si)で不規則な動作が現れ、同社が定めた最低耐性要件の750 rad(Si)を超える線量で影響が確認されました。
同社研究者は、軌道上の年間線量を150 rad(Si)と仮定した場合、典型的なTransformer推論でサイレントデータ破損が約17 rad当たり1回観測されたと報告しています。推論を毎秒1回行う条件では、1回の推論で破損が起きる確率は約300万分の1と推定されました。学習ジョブへの影響やシステム全体での緩和策は、今後の検討課題とされています。
Googleは次の大きな節目として、2027年に相互接続した衛星2基の実証を計画しています。単独衛星での推論試験から、衛星同士が連携する構成へ進み、軌道上の計算基盤を段階的に評価する計画です。











