美術家ジェフ・クーンズの個人コレクションとされる作品群が、競売会社クリスティーズの「Heroes & Lovers」に出品され、予想総額は1億ドルを超えます。クリスティーズは11月17日にニューヨークで作品を競売にかけ、残る作品は2027年2月の「Classic Week」で扱う予定です。売却に近い関係者は、クーンズが自身の制作活動への再投資を目的に作品を手放すと説明しています。
ピカソの《Le Baiser》は約4,000万ドルの予想
出品者がクーンズであるとの情報は、ニューヨーク・タイムズが取材した競売の専門家2人の説明に基づいています。クリスティーズは出品者の名前を公式には明らかにしておらず、「著名な個人収集家の所有作品」として扱っています。
作品群はルネサンスから20世紀にわたります。クリスティーズはパブロ・ピカソの絵画4点、エドゥアール・マネのパステル画、コルネリス・ファン・ハールレムとティルマン・リーメンシュナイダーの作品を紹介しています。共通のテーマは情熱、勇気、神話、信仰、人体です。
中心となるピカソの《Le Baiser》(1969年)の予想価格は約4,000万ドルです。クーンズは2008年、競売会社サザビーズでこの作品を1,740万ドルで購入しました。
クリスティーズが11月17日の「20th Century Evening Sale」(20世紀美術を扱う夜間競売)に挙げている作品には、ピカソの《Tête de femme (Dora Maar)》(1941年)、《Tête de femme》(1939〜40年)、《Couple》(1969年)も含まれます。ファン・ハールレムの《Hercules and Achelous》(1590年)、リーメンシュナイダーの《Saint Catherine》、マネの《Femme au tub》(1878〜79年ごろ)も同じ競売の対象です。
収集した古典作品とクーンズ自身の制作
今回の作品群には、クーンズ自身の作品と結びつく題材があります。マネの《Femme au tub》はクーンズの《Woman in Tub》(1988年)に、ファン・ハールレムが描いたヘラクレスと牛の格闘は《Antiquity (Farnese Bull)》(2009〜12年)に対応するイメージとして挙げられています。
クーンズは古典絵画のイメージを複製として取り入れ、青い球体を加える作品も制作してきました。マネの《草上の昼食》を用いた《Gazing Ball (Manet Déjeuner sur l’Herbe)》(2014〜15年)は、その一例です。今回売却されるマネ作品とは別の作品です。
古代彫刻を取り入れた例には、2013年の《Gazing Ball (Esquiline Venus)》があります。クーンズは古代ローマの彫刻《エスクイリーノのヴィーナス》を石こうで再現し、像を支える壺の縁に青い球体を配置しました。
クーンズは、こうした球体を、関心を寄せる芸術家たちとの対話に参加するための装置と説明しています。
大型彫刻を支える鋳造と表面加工
再投資先とされる制作活動には、専門業者による加工や長期の製作工程が伴います。クーンズのスタジオはデジタルによる形状設計、統一した照明、細かな色の管理、書面の指示を用いて制作を管理しています。ステンレス製の作品を手がけるのは専門の鋳造所、大理石の作品を手がけるのはイタリアの職人です。
風船で作った犬をステンレスで再現した《Balloon Dog》では、クーンズは自ら約50体の風船の犬を作り、再現する形を選びました。金属でありながら膨らんだ風船の外観を保つため、ねじれや結び目のしわまで再現し、表面を鏡面に磨いてから透明な色を重ねています。
《Balloon Dog》の制作費は、当初想定した約30万ドルから最終的に160万ドルになりました。クーンズは制作のために、それまで存在しなかった機械を作る必要があったと振り返っています。
《Rabbit》の9,110万ドル落札後に進む売却
クーンズ自身の作品の競売では、ステンレス製の彫刻《Rabbit》が2019年にクリスティーズで9,110万ドルで落札されました。美術市場のデータを扱うARTDAIは、クーンズの競売実績が過去10年間で約60%低下したと推計しています。
今回売却されるのはクーンズ自身の作品ではなく、彼が収集した他の美術家の作品です。クリスティーズは「Heroes & Lovers」の作品を11月のニューヨークの20世紀・21世紀美術競売で扱い、残る作品の売却を2027年2月に予定しています。










