
タツノオトシゴに似たオーストラリア南部の魚3種が、タツノオトシゴとは別の進化系統に属することが分かりました。骨格と遺伝情報の分析に基づき、新属「Australyichthys(オーストラリイクティス)」に分類されました。生きた個体は確認されていませんが、これらの魚は絶滅したと判断されたのではなく、今後の調査対象とされています。
外見では見分けにくい3種を新属に分類
新属には、今回新種として記載されたA. aegisと、従来タツノオトシゴ属に分類されていたA. minotaur、A. paradoxusが含まれます。頭を下に傾けた体形、物をつかめる尾、雄の育児嚢など、外見にはタツノオトシゴに似た特徴があります。
A. aegisは、頭部のドーム状の突起にちなみ「ヘルメットヘッド・シーマペット」と名付けられました。ほかの2種は「ブルネック・シーマペット」「パラドキシカル・シーマペット」と呼ばれ、3種をまとめて「シーマペット」と呼ぶこともあります。
分類の見直しには、標本を傷つけずに内部を調べられるマイクロCTスキャンが使われました。骨格の3次元モデルをタツノオトシゴと比較したところ、腹部を支える骨の配置などが異なり、タツノオトシゴに特徴的な骨格構造もありませんでした。
骨格と遺伝情報が示す独立した進化
遺伝情報の解析に使えたのはA. aegisの標本1点です。ゲノム解析では、この魚はタツノオトシゴが属するグループの外側に位置し、別の系統に分類されました。
研究では、Australyichthysはタツノオトシゴに近縁なグループの姉妹系統に位置付けられています。似た体形は共通の祖先から受け継がれたのではなく、異なる系統で独立に進化したとされます。
別々の系統が似た形質を獲得する現象は「収斂進化」と呼ばれます。タツノオトシゴに似た体形が同じヨウジウオ科の中で複数回生じたことは、その形がどのような生活環境と関係して進化したのかを考える手掛かりになります。
中深度の岩礁域で偶然見つかった魚
Australyichthysの生息域は、オーストラリア南部の温帯メソフォティック域とされています。メソフォティック域は光が届きにくい中深度の海域で、今回の魚はこの種の岩礁環境に生息するとされています。
標本は海底のトロール網や浚渫によって偶然採集されてきました。A. aegisの標本も、二枚貝などの調査を目的とした採集で得られました。無脊椎動物の標本群に誤って分類され、長く博物館に保管されていました。
3種はいずれも生きた状態で確認されておらず、採集記録は南オーストラリア沿岸の広い範囲に点在します。研究者らは、偶然の採集を待つのではなく、生息域を対象にした調査を優先する必要があるとしています。
「ロスト種」は絶滅認定とは異なる
研究で使われる「ロスト種」は、標本などで存在が知られていても、生きた個体が確認されていない種を指します。Australyichthysはこの考え方に基づき、調査の優先度を高める対象とされています。この呼称自体は絶滅を予測するものではありません。
IUCNレッドリストは、種の絶滅リスクを「絶滅」「野生絶滅」「深刻な危機」など9つのカテゴリーで評価します。分布や個体数の情報が足りず、リスクを評価できない場合は「情報不足」に分類されます。
IUCNの絶滅判定に関する指針では、脅威の強さや期間、範囲を評価するモデルと、最後の記録やその後の調査状況を使うモデルを扱います。両モデルは異なる証拠を評価するため、結果が一致するとは限りません。片方だけでは絶滅リスクを過大評価することもあります。
この指針では、絶滅リスクの判断に、最後の記録以降に行われた調査の時期や網羅性、十分さも考慮します。









