201510 Mouse brain horizontal cross section
写真: DataBase Center for Life Science (DBCLS) / CC BY 4.0 / Wikimedia Commons

マウスでは、運動技能に関わる神経活動が睡眠中に再現され、海馬がなくてもリプレイが起きることが示されました。手続き記憶の定着には海馬が全般的に指令を出すという見方に対し、脳内の異なる記憶回路が独立して活動する可能性を示す研究です。

5段階の課題で調べた運動記憶

研究チームは、マウスに5つの穴へ決まった順番で鼻先を入れ、水の報酬を得る課題を学習させました。練習が進むと動きは定型化し、背側線条体の一部である背外側線条体を損傷したマウスは、順序を記憶して課題を行うことが難しくなりました。

背側線条体は、運動の調整や報酬処理に関わる脳領域です。研究チームが訓練後の睡眠中に、神経の可塑性に必要な受容体を遮断すると、翌日の課題成績は訓練初期に近い水準まで下がりました。この結果は、課題の学習後も線条体での活動が重要であることを示しています。

研究チームは電極で背側線条体の神経細胞を記録し、機械学習を使って活動の並びを分析しました。起きて課題を行う間に見られた神経活動の順序が、睡眠中にも再び現れました。こうした活動の再現は「リプレイ」と呼ばれます。

睡眠中の再生と翌日の成績

睡眠中のリプレイでは、課題に関係する行動の並びが優先され、報酬に結びついた並びが多く含まれました。リプレイは通常の速さで起きる場合に加え、行動時の順序を一瞬に圧縮して進む場合もありました。

リプレイが順方向に進むことや、日中の課題で安定して活動した神経細胞が使われることは、翌日の運動成績の高さと関連していました。この結果は相関を示すもので、睡眠中のリプレイが成績向上を直接引き起こしたことを示すものではありません。

研究チームはさらに、ウイルスを用いた処置でマウスの海馬を左右とも損傷させました。海馬を損傷したマウスも、対照群と同じ速さと正確さで5段階の課題を学習し、睡眠中の線条体リプレイも保たれました。

線条体が担う運動の学習

背側線条体の働きだけで、運動技能や習慣をひとまとめに説明することはできません。SongとLeeのレビューでは、動作の習熟度が高いことや長く練習したことだけでは、その行動が習慣になったとは判断できないと整理されています。

同レビューによると、習慣か目標に基づく行動かを調べる方法の一つは、報酬の価値を下げた後も行動が続くかを測ることです。行動の順序を滑らかに実行する「技能」と、結果の価値に左右されにくい「習慣」は、異なる観点から調べられます。

レビューで紹介された研究では、行動の進み具合を自分で監視する必要をなくすと、習慣が形成されやすくなる例も示されています。今回のマウス実験は5段階の運動課題を扱っており、習得した行動が習慣になったかを直接検証したものではありません。

運動記憶を支える脳回路

基礎生物学研究所などの研究グループは、別のマウス運動課題で、運動野の神経細胞を2週間にわたり計測しました。延べ8,000個の活動を調べた結果、運動野の深い第5層では、レバーを引く動きの上達に伴い、細胞集団の活動から動きを予測する精度が高まりました。

この研究では、運動野第5層から大脳基底核へ信号を送る細胞の活動パターンも、学習後期に変化しました。研究グループは、運動野と大脳基底核が関わる回路が運動の熟練化や自動化を支える可能性を示しました。この研究は睡眠中のリプレイを調べた実験とは別の課題を扱い、運動記憶に関わる回路の広がりを示す知見です。

人間を対象にした研究では、運動課題の学習後、訓練中に活動した線条体を含む脳領域が睡眠中にも活動し、その活動の度合いが翌晩の成績向上と関連しました。研究チームは脳波と機能的MRIを同時に記録し、この活動が睡眠紡錘波と時間的に結びつくことも報告しています。

別のプレプリント研究では、思春期の参加者と成人がジャグリングを学び、睡眠中の脳波を調べました。運動領域における徐波と睡眠紡錘波の結びつきの精密さは、睡眠後の技能水準や学習曲線の変化を予測しました。これらの人間の研究は睡眠と運動学習の関係を示しますが、海馬を除いてもリプレイが続くかを検証したものではありません。