Deepwater Horizon offshore drilling unit on fire 2010
写真: Unknown author Unknown author / Public domain / Wikimedia Commons

10年以上続く深海生物の減少

メキシコ湾の深海域では、2010年のDeepwater Horizon事故後、魚類や甲殻類、頭足類の個体数が大きく減り、その状態が10年以上続いています。2011年から2015年までの約3年半に、分類群によって個体数は60〜85%減少しました。研究チームは、地球最大の生態系タイプで報告された動物相の減少のうち、最も速く深刻な例だと位置づけています。

調査では、2011年に事故直後の基準となる採集を行い、2015〜2023年には複数回の調査を実施しました。合計2,000回を超える網採集に加え、音響調査や遺伝子解析も行いました。網採集と音響調査という別々の方法で減少が確認され、結果は相互に裏付けられました。

減少は一時的な落ち込みにとどまっていません。2015〜2023年の調査でも、各分類群の個体数は低い状態が続きました。研究チームは、メキシコ湾の深海生物群が急激かつ持続的に減少し、個体数が低い状態へ移ったと報告しています。

食物網と遺伝的多様性への影響

影響を受けた生物には、オキアミやハダカイワシ類など、深海の食物網を支える分類群が含まれます。オキアミは約73%、ハダカイワシ類は約63%、ヨコエソ類は約69%減少しました。これらの動物はプランクトンを食べ、マグロやクジラなど大型捕食者の餌になります。

深海の魚類などは夜に水深の浅い場所へ移動して餌を取り、昼間は深い海へ戻ります。この上下移動は、海面付近の炭素を深海へ運ぶ「生物ポンプ」の一部を担います。そのため、個体数の減少は捕食者への餌の供給や炭素循環にも関わります。

研究チームは主要な3種のハダカイワシ類を調べ、遺伝的多様性の低下も確認しました。遺伝的多様性は環境変化への適応力に関わるため、その低下は個体数の減少を示すと同時に、将来の回復力にも影響し得ます。また、深海の餌生物に依存する保護対象種や管理対象種でも、同じ傾向が報告されています。

油流出との関係と原因の見立て

調査では、水温、酸素供給、餌の量などの自然要因と個体数の減少との対応は見つかりませんでした。減少がDeepwater Horizon事故の直後に始まったことも踏まえ、研究チームは事故を最も妥当な原因とみています。ただし、事故との直接的な因果関係は確定していません。

事故では原油に加え、流出油を分散させるための化学分散剤Corexit 9500Aが、坑井付近に約77万ガロン注入されました。油関連化合物は深海魚の卵や頭足類の組織から検出されており、汚染物質による死亡や発達への影響、繁殖能力の低下などが起きる可能性があります。こうした影響が個体数の減少にどう結びついたかは、今回の調査では確定していません。

過去のIxtoc I事故との比較で分かること

1979年にメキシコ湾のカンペチェ湾で起きたIxtoc I事故では、事故後に海底生物の個体数と分類群数が事故前の調査より減りました。ただし、堆積物からIxtoc由来の油の残留物が確認されなかったため、その変化を油流出の影響と断定できず、自然変動の範囲だった可能性も残されました。この調査はテキサス州南部の大陸棚を対象としており、今回の深海域の調査とは生息環境が異なります。

Ixtoc I事故を扱った後年のレビューでは、堆積物中の炭化水素濃度は事故から約1年後に基準値を上回り、約2年後には基準値付近へ戻ったと報告されています。一方、事故前の生態系データが不足していたため、自然変動と事故の影響を区別するのは難しく、生物群集への長期的な影響は未解決とされました。