英国・アイルランドの法律専門職ではAIの利用が広がり、文書確認や調査にかかる時間を短縮する一方、弁護士の作業時間に応じて請求する「時間課金」の見直しが課題になっています。AIの効率化は、料金の決め方だけでなく、若手が実務を学ぶ機会にも影響しています。
AI利用の広がりと時間課金への圧力
Clioの2026年調査では、英国・アイルランドの法律専門職の88%がAIを利用している一方、日々の業務フローに組み込んでいる人は27%でした。 AIを使う法律事務所のほぼ80%は、増員せずにより多くの業務を処理できると回答し、70%超は事務作業をAIに任せることでコストを削減できたとしています。
A&O Shearmanは法律分野のAI企業Harveyと、融資契約の確認や規制関連書類の分析を行うAIエージェントを開発しました。従来は数時間かかっていた作業を数分で終えられると同社は説明しています。Slaughter and Mayも、規制調査や文書分析を含む全業務分野でHarveyを導入しました。
作業時間が短くなれば、時間課金を前提にした収益モデルとの調整が必要になります。Clioの調査では、AIを広く導入した法律事務所の約5分の1が、時間課金の目標達成に難しさを感じていました。 Deloitteの調査では、時間単位で請求する業務の割合は現在の72%から、今後2〜3年で44%に下がると法律分野の幹部が予想しています。
定型業務と人の判断を分ける
契約書の確認や定型文書の作成は、AIによる自動化の影響を受けやすい業務として挙げられています。一方、顧客にとって適切な戦略を選ぶことや、複雑な法的判断には人の判断が必要だと、法律金融ファンドLexolentのニック・ロウルズ=デイヴィス氏は述べています。
スタンフォード大学ロースクールの研究は、法律分野の生成AIで使われる手法として、検索拡張生成(RAG)、プロンプト設計、追加学習、ガードレールを挙げています。これらは、回答の正確さや説明可能性、プライバシー保護に関する技術上の課題に対処するためのものです。 ただし、法律業務には請求慣行などの構造的な制約もあり、技術だけで導入上の課題が解消するわけではありません。
企業向けの契約業務では、承認済みのAIを使って標準契約の草案を修正したり、条項を要約・比較したりする使い方が示されています。AIが作った契約案は、法域ごとの規制やリスク配分を踏まえ、法律専門家が確認する必要があります。 また、機密情報を未審査のAIへ入力しないことや、AIの出力に実在しない法律・判例が含まれないかを確かめることも、同資料が挙げる注意点です。
若手弁護士の学習機会を補う
若手弁護士は、文書を多数確認することで重要な点を見分け、契約書の作成を通じて起草力を磨き、判例調査で法的な推論を学んできました。AIがこうした反復作業を担うようになると、法律事務所には同じ学習機会を別の形で設けることが求められます。
米法律事務所のK&L Gates、Orrick、Dechertは、2024年のサマーアソシエイト向けに生成AIの研修を導入しました。研修では、AI調査ツールやチャットボットの使い方、プロンプト設計を扱い、Orrickは研修初週にプロンプト設計の講習を行いました。 K&L Gatesは研修後、参加者を所内のAI活用に詳しい弁護士と組ませ、日々の業務でAIを使う機会も設けるとしています。
Pillsburyは2026年秋から、若手弁護士向けの仮想実務訓練プラットフォーム「rubi」を導入すると発表しました。新しいAI Mentorでは、実務に沿った練習課題、進捗に応じたシナリオ、法律事務所の面接練習を提供し、その場でフィードバックを返します。 顧客や案件の情報を入力せずに利用でき、会話内容を第三者のAIモデルの学習に使わない設計だとPillsburyは説明しています。
効率化を働き方と料金に反映できるか
AIで得られた時間をどう使うかは、効率化が弁護士の働き方を変えるかどうかに関わります。Clioの調査では、法律専門職の51%が夜間も働いている一方、夜間勤務を希望する人は32%でした。週末勤務も22%に対し、希望する人は11%です。
Deloitteの調査では、法律部門の幹部の85%が、AIによって法律事務所の料金体系が変わると見ています。また、96%は社内弁護士にとって技術とAIの知識がより重要になると回答しました。 調査に参加した幹部の見通しでは、法律部門の業務の平均28%が今後2〜3年でAIにより節約または自動化されるとされています。
法律事務所では、時間課金の目標、顧客への料金説明、若手の実務訓練を並行して見直す必要が生じています。AIの処理速度だけでなく、出力を確かめる弁護士の判断と、効率化で生まれた時間を何に充てるかが、導入後の業務設計に関わります。











