
大きな頭を支える小さな腕
T. rexの短い前肢は、1905年に命名された当初から研究者が調べてきた特徴です。獲物を捕らえるのに役立たないように見え、その用途は長く謎でした。
化石から手の骨が確認される前は、T. rexの指は3本だと考えられていました。近縁のゴルゴサウルスなどに2本の爪が見つかり、1988年にはT. rexの前肢の化石でも2本指が確かめられました。
前肢が小さいのは、大きな頭と強い首の筋肉を支える体のつくりと関係する可能性があります。大型肉食恐竜は口で獲物を捕らえ、死骸を解体したとされます。頭と腕の両方を大きくすると、体の前部が重くなりすぎるためです。
歯を覆っていた可能性のある唇
映画や復元画では、T. rexの歯が口を閉じた状態でも見えている姿がよく描かれてきました。しかし、歯を唇が覆っていた可能性を示す研究が2023年に発表されました。
研究チームは近縁種ダスプレトサウルスの化石の歯を調べ、エナメル質が両側で均等にすり減っていたことを報告しました。この特徴は、歯が唇に保護されていたという見方と整合します。

T. rexの頭骨の大きさからは、歯が口の中に収まった可能性があります。あごの骨にある神経や血管の通り道も、唇を持つ現生爬虫類に似ているとされます。これらの特徴から、口を閉じている間は歯が隠れていたという仮説が示されています。
待ち伏せと獲物の選び方
T. rexの最高速度は時速約12マイル(約19キロ)と推定され、高速で獲物を追い続ける体ではなかったようです。一方、治癒した恐竜の骨に残るT. rexの歯形は、積極的に狩りをしていた証拠とされています。
そのため、短い距離から急襲する待ち伏せ型の狩りを行い、若い個体や高齢・病気の個体を狙った可能性があります。健康な成体のカモノハシ竜や角竜、鎧竜は反撃で捕食者を傷つける危険があり、T. rexは狩りだけでなく死骸も利用したと考えられています。

Wyenberg-Henzler氏とScannella氏は、モンタナ州のエドモントサウルスの頭骨に刺さった歯を調べました。CT画像と歯の形状・鋸歯の特徴から、歯は中型から大型のティラノサウルス類のものと推定されました。
歯の周囲に反応性の骨がなかったことから、エドモントサウルスは歯が刺さった時期の近くに死亡したと考えられます。歯の位置と向きも合わせて分析した結果、正面からの噛みつきは、獲物を抑えるか致命傷を与え、その後に死骸を食べる際に生じた可能性が高いとされました。

歯の化学結合から推定した体温
2026年の研究では、T. rexの歯のエナメル質を分析し、体温を約97°F(約36°C)と推定しました。歯のエナメル質に含まれる炭素と酸素の原子は、温度によって結びつき方が変わるため、そのパターンが化石化した動物の体温を推定する手がかりになります。
この手法は、絶滅動物に使う前に現生のシロサイ、インドゾウ、ナイルワニ、オオメジロザメの歯で検証され、推定値は既知の体温と1°C以内で一致しました。さらに、2万年前のマンモスや、1200万年前のワニとサイの歯でも同様の結果が得られました。
T. rexの研究では3本の歯を測定し、平均体温を約36.3°Cと算出しています。同じ時代の生態系にいたワニ類の歯からは平均約30.9°Cが得られました。T. rexの推定値は現生の大型哺乳類に近く、鳥類よりは低いと研究者は説明しました。

羽毛の有無は皮膚化石が示す範囲に限られる
T. rexより古いティラノサウルス類のディロングやユウティラヌスには、羽毛が見つかっています。そのため、T. rexにも羽毛があったのか、研究者の間で議論が続いています。
一方、T. rexの皮膚化石を調べた研究では、首など複数の部位の皮膚痕が、羽毛ではなくうろこに覆われていたことが示されました。調査された大型ティラノサウルス類の皮膚痕にも羽毛の痕跡は見つからず、少なくとも全身が羽毛で覆われていたという見方には慎重さが必要です。
この研究の著者らは、大型種では羽毛が体の熱を逃がしにくくした可能性を挙げ、T. rexの羽毛が限られた範囲に残っていた可能性も示しました。ただし、羽毛の保存には特定の条件が必要なため、皮膚化石に痕跡がないことだけで、羽毛が存在しなかったとは言い切れません。










