Pesticide spraying in cultivation in Andhra Pradesh
写真: PJeganathan / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

農薬散布の影響を受けやすい農場労働者や周辺住民の健康を守るため、南アフリカでは化学農薬に代わる害虫対策が議論されています。候補には、微生物などを使う生物農薬や、害虫の遺伝子の働きを妨げるRNA干渉(RNAi)スプレーがあります。安全性の評価や承認手続きには課題が残っています。

農場労働者や子どもへの農薬曝露

南アフリカの農家は、フォールアーミーワームやコナカイガラムシなど、作物に被害を与える害虫を抑えるために合成化学農薬を使っています。一方、Women on Farms Projectの共同代表コレット・ソロモン氏によると、女性労働者が果実を収穫している間に農薬が散布されることがあり、手袋などの保護具を着けずに作業する場合もあります。

ソロモン氏は、散布中に畑にいなくても、労働者が散布後まもなくブドウ畑へ戻ることや、農場近くの住居に農薬が漂うことがあると述べています。手袋はブドウのような繊細な果実を扱う作業に適さないとされ、労働者が汚染されたつるに素手で触れたり、薬剤を吸い込んだりする状況も伝えられています。

環境疫学者レジーナ・モロモ氏らは、2017年から2019年に果樹栽培地域の9〜15歳の子どもから尿検体を集め、農薬曝露の指標を調べました。検査対象の60%に最近の農薬曝露の兆候があり、40%は農場に住み、80%には農場で働く家族が少なくとも1人いました。子どもたちは、農地から自宅への農薬の漂流や家庭内での殺虫剤の使用を報告しました。

RNAiスプレーと生物農薬の違い

生物農薬は、植物抽出物や細菌、菌類などを使って害虫を抑える方法です。RNAiスプレーは、改変した二本鎖RNAを害虫に取り込ませ、標的遺伝子の働きを妨げる技術です。

RNAiでは、二本鎖RNAが害虫の細胞内で小さなRNAに処理され、標的遺伝子に対応するメッセンジャーRNAに結合します。その結果、害虫に必要な特定のタンパク質が作られなくなります。植物そのものにRNAを作らせる方式と、植物に外から散布する方式があり、後者では遺伝子組み換え作物を使いません。

RNAiスプレーは標的を絞る仕組みですが、二本鎖RNAは紫外線や酵素などで分解されやすく、害虫の細胞への取り込み効率も課題です。2023年には、コロラドハムシを標的とする散布型RNAi農薬Ledpronaが米国で登録されました。葉に付着したRNAの持続性や害虫への取り込みを高める方法として、リポソーム封入やナノ材料を使った製剤などが研究レビューで挙げられています。

安全性評価と承認の課題

植物遺伝学者サラ・ザノン・アガピト=テンフェン氏らの国際タスクフォースは、遺伝子工学を使う農薬に関する700本の研究論文を調べました。そのうち標的外生物への影響を扱った研究は23本で、半数には妥当な比較に必要な対照群がありませんでした。評価対象となった12本のうち11本でRNAiスプレーによる標的外生物への影響が検出されたと、同氏は説明しました。

南アフリカのプレトリア大学で害虫防除の遺伝学を研究するグードルン・ディットリヒ=シュレーダー氏は、RNAiスプレーを総合的病害虫管理の補助策と位置づけています。同氏は、従来の防除法に抵抗性を持つ害虫への対策になり得るとしつつ、毒性と環境への影響を評価する必要があると述べています。また、遺伝子改変した生物を放す場合は、散布する製品とは異なる生態・遺伝面の評価が必要だとの見解を示しました。

南アフリカでは、化学農薬と生物農薬を同じ登録機関が審査しています。化学農薬の登録には6〜12カ月かかります。一方、生物農薬には独自の試験・書類要件があり、農業省の登録部門で承認が滞ることがあると、UnPoisonのアンナ・シェベル氏は指摘しています。同氏は、生物農薬の審査に必要な技術的能力が不足し、合成農薬と同じ手続きで扱われていると述べました。

既存の生物的防除と農法の選択肢

南アフリカでは、柑橘類を食害するフォールス・コドリンガを抑えるため、自然界に存在するウイルスが商業農場で使われています。ディットリヒ=シュレーダー氏は、試験された化学農薬と少なくとも同等の効果があり、柑橘類の害虫を抑える益虫には無害と評価されたと述べています。

サハラ以南アフリカの生物的防除を扱ったメタ分析は、31作物を対象とする99研究を集約しました。生物的防除を行わない場合と比べ、害虫の数は63%減り、作物被害は50%超減少し、収量は60%超増加しました。合成農薬との比較では、害虫数と収量は同程度で、天敵の数は43%多くなりました。

メタ分析に含まれた方法には、混作、プッシュ・プル法、植物の多い畑の縁を保つ方法、捕食者や寄生者などの天敵の導入、植物由来農薬があります。これらの方法は害虫を直接抑えるほか、天敵を畑に保ち、害虫の発生を抑える環境をつくります。アフリカ生物多様性センターのマリアム・マイエット氏は、混作やアグロフォレストリー、天敵を引き寄せる農法を通じて、農薬への依存を減らすことを提案しています。

健康と生態系を踏まえた対策

アフリカ生物多様性センターが委託した検査では、パン、トウモロコシ粉、果物、野菜、乳幼児向け食品など、南アフリカで一般的な食品の86%から農薬残留が見つかったと、マイエット氏は述べています。2024年には、有毒な農薬テルブフォスが誤って混入した菓子を食べた子ども6人が死亡しました。

代替策を選ぶ際は、害虫を抑える効果と、労働者や周辺の生物への影響の両方が焦点になります。RNAiスプレーのような製品と遺伝子改変した生物の放出では、作用の仕組みや評価すべきリスクが異なります。ディットリヒ=シュレーダー氏は、製品ごとの危険性を特定して検査し、リスクに応じた規制を設けるべきだと述べています。

マイエット氏は、農薬使用を減らすには「より安全な農薬」だけでなく、混作やアグロフォレストリーなど、農薬の必要性を抑える農業システムが重要だとしています。