Hacker-Pschorr Oktoberfest Girl Remix
写真: File:Hacker-Pschorr Oktoberfest Girl.jpg by Markburger83 Derivative work: Lauro Sirgado ( talk · contribs ) / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons

空腹のショウジョウバエは、特定の匂いとエタノールを結び付ける学習が速くなります。この変化には、空腹時に働く神経細胞が関与します。研究では、昆虫の神経伝達物質オクトパミンが、エタノールを報酬として記憶する回路に影響することが示されました。この仕組みは、空腹などの状態が環境中の手掛かりと飲酒欲求の結び付きにどう関わるかを調べる手掛かりになります。

空腹時に匂いとエタノールの学習が速まる

研究チームはショウジョウバエに、特定の匂いとエタノールを関連付けて学習させました。餌を与えず空腹にしたハエは、満腹のハエよりも、その匂いとエタノールの結び付きを速く学びました。

エタノールを報酬として覚える仕組みには、匂いなどの環境中の手掛かりが関わります。空腹時には同じ手掛かりへの反応が変わり、エタノールへの選好にも影響しました。

この違いには、オクトパミンを作る神経細胞の一つ、VUMa3が関わっていました。この細胞の働きを遺伝子操作で抑えると、空腹によって学習が速まる効果が失われました。神経細胞を抑制または活性化する操作は、ハエがエタノールを報酬として感じるまでの時間にも影響しました。エタノール選好への影響は空腹時に限られました。

オクトパミンが空腹時の回路に加わる

オクトパミンは昆虫の神経伝達物質で、哺乳類のノルアドレナリンに相当する働きを持ちます。ノルアドレナリンは、人が空腹のときに分泌される、闘争・逃走反応に関わる物質です。

満腹時と空腹時では、エタノールへの選好を調整する神経回路が異なります。空腹時にはVUMa3がアルコールに関する記憶経路に加わり、匂いなどの感覚処理や報酬記憶に関わる回路に作用します。

空腹は既存の反応を強めるだけでなく、記憶や感覚処理に関わる神経回路の働き方を変えます。

シナプスの構造も生理状態に応じて変化

ショウジョウバエの神経細胞同士の接続部位であるシナプスを、細胞の種類ごとに可視化する技術が開発されました。記憶に関わるケニオン細胞では、同じ細胞の中でも、接続相手によってシナプス構造が異なる区画に分かれていました。

ケニオン細胞は匂いに応答し、その匂いと報酬や罰の経験に応じてシナプスの出力を調節します。空腹や睡眠不足のハエでは、シナプス構造が区画ごとに再編成され、この変化はオクトパミンによって制御されていました。

空腹状態では、ケニオン細胞内に見られるシナプス構造の差が小さくなることも報告されました。これらの結果は、内部状態に応じた行動変化の背景に、神経細胞内の接続構造の再編成があることを示しています。

人の飲酒欲求との関係は研究の手掛かり

ショウジョウバエの研究成果は、人間の飲酒行動を直接調べたものではありません。研究者は、ハエの記憶を調べることで、人が環境中の手掛かりとアルコールをどう結び付けるかを理解し、再発予防や依存症治療を考える手掛かりになると述べています。

研究者のカラ・カウン氏は、普段は気にならないバーの看板が、昼食を抜いて空腹の日には飲酒欲求を引き起こす可能性を例に挙げました。これは空腹と環境中の手掛かりの結び付きを説明する仮説的な例で、人で同じ神経回路が働くことを示す実験結果ではありません。

ルイス・シェラー氏は、強い空腹やストレスのある環境で育つことが、アルコール依存症になりやすさに関わる可能性を述べています。研究者らは、食料不安などの外的ストレスが、アルコールや薬物依存に関わる脳内の報酬系にどう影響するかを明らかにするうえで、今回の研究が役立つとしています。