O'Donnell-Luria–Rodan syndrome — Brain MRI
写真: Yang Li; Lijuan Fan; Rong Luo; Zuozhen Yang; Meng Yuan; Jinxiu Zhang; Jing Gan / CC BY 4.0 / Wikimedia Commons

米ウィスコンシン大学マディソン校などの研究チームは、腸内細菌が作る代謝物イミダゾールプロピオン酸(ImP)が、アルツハイマー病に関連する脳の変化を促す可能性を報告しました。認知機能に問題のない成人を調査し、遺伝データやマウス、培養細胞を使った実験でも関連を調べています。

認知機能と病理指標に見られた関連

研究チームは、認知機能に障害のない成人1,196人を対象に、血漿中のImP濃度と認知機能、アルツハイマー病関連指標との関係を分析しました。対象者の平均年齢は61.2歳でした。年齢や性別、BMI、APOE ε4保有状況などを考慮した解析でも、ImP濃度が高い人ほど認知機能スコアが低い傾向がありました。

追跡調査でも、血漿中のImP濃度が高い人では認知機能の低下が見られました。また、ImP濃度はタウ病理など、アルツハイマー病に関連する複数の指標とも関連していました。

便の微生物遺伝子を調べた分析では、ImPを作る酵素に関わる遺伝子urdAを持つ細菌の多さが、低い認知機能スコアや病理指標と関連しました。urdAは、細菌がヒスチジン由来の物質からImPを作る過程に関わります。

遺伝データを使った因果関係の検討

研究チームは、遺伝的な違いを手がかりに、ImPとアルツハイマー病の関係も調べました。染色体12上で、血中ImP濃度とアルツハイマー病リスクの双方に関係する遺伝子座が見つかりました。研究チームは、この結果をImPが病気に関わる可能性を支持するものと位置づけています。

この分析にはメンデルランダム化法を使いました。遺伝子型を操作変数として、遺伝的に決まる曝露の違いが結果に及ぼす影響を推定する方法です。

この手法で因果関係を推定するには、遺伝的な操作変数が曝露と強く関連し、曝露を介してのみ結果に影響するという前提が必要です。この前提が推定の条件となるため、遺伝データの関連だけで因果関係が確定するわけではありません。

マウスと細胞で見られた変化

研究チームは、アルツハイマー病に似た脳の変化が起きるよう遺伝子改変したマウスに、数カ月間ImPを与えました。アミロイド斑ができやすいモデルでは斑が増え、タウが蓄積しやすいモデルでは炎症や、星形の支持細胞であるアストロサイトの活性化が見られました。

脳血管の内側を形作る細胞を使った実験では、ImPによって細胞層の抵抗が低下しました。マウスに青色色素を注射した実験でも、色素が脳組織へ漏れ、血液脳関門の働きが損なわれたことを示す結果が得られました。

培養した神経細胞では、ImPへの曝露でタウタンパク質の異常なリン酸化が進みました。タウのリン酸化に関わる酵素GSK3βを阻害すると、この変化が抑えられました。研究チームは、関連する分子経路を示しています。

代謝物の由来と研究の限界

ImPは、腸内細菌がヒスチジンを代謝する過程で作る物質です。2025年の総説によると、urdAが作る酵素ウロカン酸還元酵素が、その生成に関わります。

同総説は、ImPと2型糖尿病や肥満、慢性腎臓病などとの関連をまとめ、インスリン抵抗性、糖代謝の異常、慢性炎症との関係も論じています。今回の研究では脳血管の細胞層への影響も調べており、代謝疾患で扱われてきた血管・バリア機能と脳への作用に接点があります。

認知機能を調べた人のデータは観察研究であり、ImPを減らせば認知症を防げると示したものではありません。動物実験では雄のマウスにImPを飲ませました。食事や薬で人の腸内ImP産生を安全に抑える方法も、今後の検討課題です。